第6話 王太子殿下のお願い

 私は驚いてレオンハルト王太子の顔をまじまじと見た。家族以外でそのことを知っているものはいないはずだったからだ。


「どうしてそれを」


「妹さんに色々聞いてみたんです。まあ、あなたを悪口が大半でしたが、それを差し引いて考えてみると、ある程度確信めいたことが僕には分かりましたよ」


 そこで王太子は一息つくと、私の方を真剣な目で見てこう言った。


「あなたは、事前に何かを察知して皆に伝えることがある。そのため良くないことが起こると、みんなあなたのせいにされてしまう。それが噂の本質なのではないですか?」


 核心をつく言葉にびっくりしてしまった。妹が昔披露した能力のことをペラペラとしゃべってしまったのかもしれないが、それにしても、これだけの情報でわかってしまうなんて。


 もしかしたら自分を理解してくれる人が登場したかもしれない。という嬉しい気持ちと、どうせ、本当に自分をわかってくれる人なんていやしないよ、という冷ややかな気持が、自分の中で混ざり合っていた。


 私の本当の能力のことを言ってしまったら、気持ち悪がられるかもしれない。でも、ちょっとでも私の気持ちをわかってもらえるとしたら、どんなに嬉しいことだろう。


 私は思い切って話をすることにした。


「本当は私、未来のことをちょっとだけ、見ることができるんです」


 それから、私は今までのことを順に語り始めた。母が死んだこと。その後、能力に目覚めたこと。人の役に立って嬉しかったのに、だんだん、気味悪がられてみんな遠ざかっていってしまったこと。


 レオンハルト殿下はひとつひとつの話に、真剣に耳を傾けてくれた。そして最後に、「君は悪くない。今までよく頑張ったきたね」と言ってくれたのだ。


 殿下の一言があまりにも私の胸に刺さったので、私は思わず涙を流してしまった。母が死んだ時以来だったかもしれない。涙を流したせいで、何かのわだかまりがすーっと消え、体が軽くなったような気がした。


 私が落ち着くのを待ってから、レオンハルト殿下は再び私に質問を始めた。


「その能力はいつも発動されているのかい?」


「急に、何かの場面が頭の中に出てくるんです。映像だけじゃなくって、物音がしたり、話し声が聞こえたり。いつも突然、浮かんできます。昔は既視感かと思っていたんですが、最近は情景も音もはっきりとわかるようになってきたので、自分にはそんな能力があるとわかりました」


「では、都合よく未来をみることはできないんだな」


「はい」


「その未来を変えることは?」


「多分、タイミングの問題になると思います。もう状況が確定している場合は、その場の行動で変えることは難しいと思います。婚約破棄の時も直前でその場面を見ましたが、あの場でできることは何もありませんでした。でも、殿下を助けた時のように、とっさの判断でなんとかできる場合はその能力は役立つかもしれません」


「と、すると、君がそばにいることで、僕が助かる可能性は十分あるのか。確実ではないにしろ」


 レオンハルト王太子は独り言のようにそうつぶやいた。


「どういうことですか?」


「三ヶ月ほど、この別荘で僕と一緒に生活をともにしてほしい。もちろん、24時間つきっきりで」

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