第5話 ランチタイム

 馬車で連れてこられたところは、王立学校にほど近いところにある王太子の別荘だった。門が開かれると、広大な庭が広がっており、美しい花々が咲き誇っている。ゆっくりと馬車は道を進み、やがて、白い大理石でできた建物の前にゆっくりと到着した。


「ここは王宮じゃないから、ちょっと不便かもしれないけど、その分、気を楽にできるんじゃないかな」


 いや、十分プレッシャーありますって……


 レオンハルト殿下に手を取られ、馬車から降りると、そこには執事らしい人と、メイドが数人すでに待機して、深々とお辞儀をしていた。


 私は広々としたダイニングホールに連れてこられた。高い天井にはシャンデリアが輝き、壁には絵画がかけれれている。長いテーブルは純白のテーブルクロスで覆われ、銀の燭台や美しい花々で飾り付けられていた。


 そんな仰々しいテーブルで、王太子殿下と私は二人っきりで食事をとることになった。執事の指揮で次々と、銀のトレイに載せられた食事が運ばれてくる。二人だけの食事なら、立派すぎるテーブルの無駄遣いかと思われたが、それなりに意味があるらしい。


 いちいち食事の説明が入り、にこやかにそれを聞き流してから優雅に食べるということを繰り返す。久しぶりに貴族らしい食事が食べれたことは良かったが(何しろ、実家では、あまり物の食材を自分で調理するという令嬢らしからぬ生活をしていたので)、ただ、正直、レオンハルト王太子と何を話せばいいか分からず微妙な空気が流れていた。


 いったいなんの目的で私はここに呼ばれたんだろう。


「あまり、お口に合いませんか?」


「いえ、そんな、食べ慣れないものばかりですから」


「そうなんですか、それなら、何か別のものを用意させますが」


「いえ、結構です。そのうち慣れます。それに、食べ物に罪はありません」


 会話が全然弾まず、非常に気まずい雰囲気の中、食事が一段落した。王太子の意図がいまだにわからない私は、自分から話を切り出すことにした。


「で、いったい私になんの要件なのでしょうか?」


「あなたのことを深く知りたかったというのはどうかな」


 レオンハルトはその深い紺色の切長の目でイタズラっぽく私を見つめている。


「私と関わるとろくな事がないので、やめたほうがいいと思いますけど。多分噂は耳に入っていると思いますが」


「あなたは私の命の恩人です。大切にもてなしても、何もおかしいところはないはずですが」


「私は不幸を呼ぶ女だの、悪魔みたいなひどい女だとか皆に言われています。私に関わると殿下の名誉に傷がつきます。この間も婚約破棄されてしまいましたし」


「噂は色々聞きました。しかし、僕は人の噂をあまり信じないようにしているんです」


 さっきとはうって変わって、彼は真剣な表情をしていた。そして彼は執事に手でサッと合図すると、スッと執事は部屋から出ていった。


「僕は自分の目で見たり、確認したりしないと納得しない人間ですから。で、自分なりにいろいろ噂をつなぎ合わせてこう考えてみたんです」


 そして、彼はこう言った。


「あなたは、これから起こる何かを、事前に知る能力があるのではないですか?」


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