第4話 嵐のように
そして、翌日
退屈な我が国の歴史の授業がようやっと終わった。教室の中で、ポツンとたった一つだけ離れている机と椅子(もちろん、私がそうセッティングしたわけではない)。悠々自適な無人島生活を送っていた私だったが、そこに、突然嵐のごとく王太子殿下が現れた。
教室が騒然とする中、現れたレオンハルト殿下は真っすぐにこっちに向かってくる。『こっちに来るな、こっちに来るな』という私の願いも虚しく、彼は私の目の前に来てしまった。
「昨日はどうもありがとうございました。できれば、二人だけでちょっと話をしたいのですが」
レオンハルト王太子殿下は私に微笑みながら丁寧に話しかけてきた。相変わらず涼やかな眼差しをしている。彼の周囲だけが何か特別な空間であるみたいだ。
それと同時に、今まで思っていた冷たい人だなという印象が、実際には少し違っていて意外な感じがした。けれど私は、あくまで事務的口調で対応することにした。
「レオンハルト殿下。ご用件はなんでしょうか。手短に、この場で話していただければありがたいのですが」
殿下はわかっていないと思うけど、周囲の視線が矢のように私の全身に突き刺さっていた。痛い痛すぎる。このままでは血が噴き出てしまいそうだ。いくら嫌われ者を自負している私でも、衆人環視の場で王太子殿下と親しげに話をするほどの度胸はない。
「今日は午後から授業がないんでしょう。よかったら昼食をご一緒しませんか。昨日、あなたの弁当台無しにしてしまったから、そのお詫びも込めて」
弁当なんてどうでもいいのに。それにしてもあのお弁当の残骸を見られていたとはなんという屈辱。あまりの恥ずかしさに私は顔を真っ赤にしてしまった。その時、頭にイメージが浮かんできた。
《王太子と私が二人っきりで、どこか知らない場所で食事を取っている。見たこともないような豪華な食事が目の前に広がっていた》
——避けようがないのか。
まあ、どうせ、学園中のみんなからは嫌われてしまっているんだし、豪華な食事に罪はないのだ。これで、あのあわれなお弁当も成仏してくれるだろう。
「分かりました参りましょう。でも、ひとつ王太子殿下に申し上げたいことがあります」
「なんだい?」
「私なんかに、お声をかけて頂くのは、大変光栄でありがたいと思っております。でも、殿下は国民みんなのものなので、私ばかりに特別な対応をされると、周りの視線が気になって仕方がないのです。以後、遠慮していただけませんか」
ちょっと王太子殿下は考え、それから、再び、笑顔で話しかけてきた。
「分かりました、善処します。それでは、後ほど」
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