第29話 新政府軍上陸
三月二十六日
五月七日
無傷の新政府艦隊は青森に到着した。
五月七日、兵員輸送用にチャーターしたアリリカのヤンシー、イギリス
のオーサカも四月初めには渡海準備を完了している。
箱館も完全に雪は解けている
そろそろ薩長がやってくる。
三月二十七日
五月八日
榎本が集合をかけた。土方は中島と一緒に五稜郭に行った。
榎本総裁 「皆さん、既に承知のことと思うがアボルタージュは失敗しました。
荒井君はよくやってくれましたが甲賀君はじめ十九名が戦死しました。
残念です。」
土方総督 「榎本さん、荒井が居らんがどうなっているんだっ。」
榎本総裁 「体調が悪いので休ませていす。」
土方総督 「ふざけるなっ、相馬っ引ばってこい。榎本さん、あんた荒井をどう
処分するんだ。切腹ならおれが介錯してやるっ。」
榎本総裁 「土方さん、私は荒井君を罰る気はありません。彼は任務を遂行しただ
けです。」
土方総督 「ここに居る中で宮古湾に参加したのは俺と相馬だけだ。あまりにも無
謀な作戦だった。暴風雨に遭遇し船はバラバラになっちまった。
榎本さん、俺は荒井にも言ったが榎本海軍は呪われているんじゃねぇの
か。俺は計画を中止して箱館に帰ろうと言った。だが、あいつは作戦を続
行すると言い張った。指揮権は自分にあると言ってなっ。回天は外輪船
だ。アボルタージュには向かねぇと言っていたじゃねぇか。甲賀艦長も作
戦を中止しましょうと言ってたよ。みんな聞いてくれ、荒井は回天を甲鉄
に対して直角に突っ込んだ。甲鉄は回天よりも三メートルも低かった。
切込隊は回天の先っぽから一人ずつしか飛びおれねぇんだぞ。敵は滅多
撃ちだ。体勢を立て直す前に打ち殺されていったよ。
おかしくねぇか。絶対作戦は中止にすべきだったんだよ。幡龍は箱館に帰
って来たからいいが、高雄はわざと座礁して船に火をかけた。乗組員は南
部藩に投降した。相馬っ、荒井を連れて来たのか。
相馬主計 「部屋に鍵をかけて返事もしません。」
土方総督 「腐った外道だ。俺は帰る。」
土方は出て行った。
後を追うようにほとんどの者が出て来た。
土方は全部隊長に作戦の徹底を促した。全隊射撃の腕が上がったと報
告が入った。
四月六日
五月十七日
新政府軍は、海陸参謀長山田顯義が千五百の兵を載せて青森を出港し
た。
土方は、柳川熊吉を訪ねた。
土方総督 「親分さん、棟梁、和尚さん、そろそろ薩長が攻めて来る。いろいろ
無理難題をかけたが許してくれ。これから忙しくなる。今日が最後になる
だろう。本当にありがとう。あんたらに会えて本当に良かった。」
柳川熊吉 「先生、礼を言わなくちゃならねぇのは俺達の方だよ。先生に会えてよか
った。戦が終わったら柳川鍋食おうや。なっ、先生。」
三人とも泣いている。土方が今度の戦で死ぬと言うことを三人は知ってい
た。三人は泣きながら笑顔をつくって土方を見送った。
柳川熊吉 「先生、先生に頼まれたことは絶対やるから安心してくだせい。達者
で。」
土方は佐野専座衛門を訪ねた。
土方総督 「旦那、本当に世話になった。敵さんもそろそろ上陸してくる
だろう。俺も木古内二股口に行かなくちゃならねぇ。
多分、一本木あたりでおさらばになると思う。迷惑をかけちまうが
そん時は頼むな。」
佐野専座衛門「新撰組鬼の副長とこうして話が出来たこと忘れませんよ。土方さん、
ありがとうございました。」
土方は全てやり切った。
後は、三好胖の墓参りをすれば戦だけに集中する。
近藤さん、沖田見ていてくれよ。
土方は空を見上げた。カモメが飛んでいる。
四月九日
五月二十日
早朝、新政府軍が乙部に上陸を始めた。上陸する前に激しい艦砲射撃
があった。
江差奉行松岡は、土方との約束通り一聯隊を松前へ走らせた。
江差における戦死者は十名ほどで済んだ。
四月十一日
五月二十二日
松前を守備していた遊撃隊の伊庭八郎と春日左衛門率いる陸軍隊五百名
が江差奪還の為、江差に向かう。
前日、松前奉行人見勝太郎と伊庭八郎、砲兵、工兵郎、春日左衛門は
軍議をひらいた。
伊庭八郎 「人見さん、春日さん、江差を奪還したい。どうだろう。」
人見勝太郎「賛成だ。敵もまだ、体制がとれていない。今が狙い目だと思う。」
春日左衛門「どの程度連れて行く。」
伊庭八郎 「五百。」
人見勝太郎「伊庭、土方総督も言われて居るが無理はするなよ。」
伊庭隊、春日隊は根武田(現・松前町)で新政府軍を速攻。簡単に蹴散ら
し翌日には一気に茂草(現・松前町)まで進出、これに伴い新政府軍は江
刺まで後退する。
このまま江差を目指したが、新政府軍が木古内方面に進出中という情報が
入ったので伊庭達は松前に退却した。
四月十二日
五月二十三日
木古内では大鳥陸軍奉行が陣頭指揮を執り伝習隊、額兵隊などが駆け付け
木古内を守っていた
五月二十三日 彰義隊と合流、五百名が布陣した。松前から敗走してきた
遊撃隊、陸軍隊が合流し木古内の要所に部隊を配置した。
新政府軍は四月十日には稲穂峠に向かっていた。十二日早朝には木古内に
前進し榎本軍との間で木古内川を挟んで激しい銃撃戦が行われていた。
結果は新政府軍が笹小屋まで引いた。
大鳥総督 「ここ、木古内で敵を迎え撃つ。射撃訓練に参加した銃手を前面に出して
くれ。」
人見勝太郎「頭取達に伝えるんだ。十名規模で道路の要所要所に伏せて敵を狙い撃
ちにするようにと。」
伊庭八郎 「これまでの戦いで敵の銃隊は大したことがないことが判った。兎に角
八百メートル離れたところから狙い撃ちにしていくように。」
この日、二股口においても激戦が繰り広げられていた。
新政府軍はこの方面に松前藩兵(白隊隊長下國東七郎)二百名、長州藩兵百
名、備後福山兵百名、津軽兵百名。計五百名を投入した。
二股口を守るのは、土方総督、伝習士官隊、新撰組、衝鋒隊、砲兵、工
兵。
土方は、天狗山、鷲待山、台場山等に堅固な土塁を構築し待ち構えてい
た。
土方総督 「滝川(伝習士官隊隊長)、島田(守衛新選組組頭取)、古屋(衝鋒隊隊長)、
いよいよ始まるぞっ。いいか、銃弾五万発を全員に分配してくれ。そして
桶に水を入れて用意させろ。重心を冷やすためだ。
滝川、お前の隊は遊撃隊として動き回ってくれ。敵に一泡吹かせてやれ。
いいか、部下を殺すなよ。」
島田魁 「守衛新選組は砲兵隊を助けます。」
古屋作左衛門「切込みは許可していただけますか。」
土方総督 「切込みは禁止する。兎に角、小銃で撃ちまくれ。島田お前らのうち
半数は優秀な銃手の弾込めをやってくれ。滝川、優秀な者には小銃二丁持
たせているなっ!何度も言うが撃って撃って撃ちまくれ。」
十二日から十三日にかけて十時間に及ぶ激戦となった。
新政府軍の銃隊一人に付き五十発と予備五十発、計百発すべてを撃ち尽く
してしまい、後退していった。
土方軍も一人百十六発撃っていた。
四月十四日、仙台藩を脱出した二関源治率いる見國隊四百名がイギリス
船で鷲ノ木近くの砂原に到着、室蘭・函館方面に投入された。
四月十六日
五月二十七日
新政府軍の増援部隊が江差に上陸した。
五月二十七日、新政府軍は松前口(海岸沿いに松前に向かう) 木古内口
(山越えで木古内に向かう)二股口(乙部から鶉・中山峠け大野に向かう)
安野呂口(乙部から内浦湾に面する部落に向かう) 四道から箱館を責める
作戦を取った。
榎本軍は夜中に兵五百で江良町村に布陣した。この一連の戦いで新政府
軍は十六名の戦傷者を出したが榎本軍に至っては六十名以上の犠牲を出し
た。
その中には、陸軍隊陸軍奉行役忠内次郎蔵、同監査軍堀覚之助、同佐久
間悌二、歩兵頭頭取岡田斧吉、一聯隊頭取杉山敬二郎等がいた。
四月十七日
五月二十八日
江差を奪還した新政府軍の第一陣は六百名だったが、その中には二百名
の松前藩士がいた。
榎本軍に対する松前藩士の恨みはすさまじいものだった。
十一日には江良町村で激戦となり、松前藩兵十三人が戦死、十六名の戦
傷者を出した。
新政府軍が松前城を奪回した日の午後、遊撃隊を中心に松前から敗走して
くる隊を立て直していた。
四月十八日
五月二十九日
新政府軍が松前を攻撃。新政府軍は猛烈な艦砲射撃を展開、人見勝太郎
は松前城を放棄し知内に敗走。
この戦闘で四十名以上の戦死者を出した。
新政府軍は、軍艦春日、朝陽で凄まじい艦砲射撃を行った。福島村の榎
本軍は止む無く知内に敗走した。
一方、木古内陣地には額兵隊、彰義隊、陸軍隊が守備していた。
木古内は松前から箱館に至る松前街道の中核にあたっており、さらには神
ノ国村から稲穂峠(中野越え)笹小屋を経て木古内に到る交通上の要所でも
ある。戦略的にも重要であった。ここに堅固な砲台・胸壕を構築してい
る。
星恂太郎 「菅沼さん、今井君(陸軍隊頭取)、土方総督の言われた通りに展開してい
る。ただ、犠牲は想定以上だ。」
今井八郎 「敵の艦砲射撃が脅威です。敵の銃隊の腕は大したことありません。断然
うちが勝っています。艦砲射撃を防ぐすべはありません。厄介です。」
菅沼三五郎 「星君、ここでどのくらい持ちこたえられる。ここが崩れると土方総督
が挟撃されかねない。」
星恂太郎 「大鳥さんが出張っている。五稜郭に返した方がやりやすい。兎に角、敗
走してくる兵士をここに集めれば人数は大丈夫だ。」
今井八郎 「もう時間がありません。兎に角、ここは絶対死守です。」
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