第28話  宮古湾海戦

三月二十一日 

五月二日

     午前七時、回天 幡龍、高尾は静かに箱館を離れた。先ず南部亮鮫の港 

     に集結。甲鉄の情報は一向に 入ってこない。急遽軍議を開いて宮古湾南

     方五里にある山田湾に入港、情報収集しを行うことにした。

     宮古湾内に甲鉄が停泊していると言う情報が入った。山田湾を出港して

     間もなく天候が荒れてきた。暴風雨に遭遇した。回天は荒海に揉まれな 

     がらも進んだが、蒸気力の乏しい高雄・幡龍は遅れだした。そして 回天 

     とはぐれてしまった。

     二十四日には天候も回復し回天は山田湾口に戻った、前方に高雄が目視 

     できた。しかし、幡龍は現れない。


土方総督 「荒井君、あんたら海軍は呪われているのか。何かやろうとすると海が

     荒れる。必ずと言っていいくらい暴風雨に見舞われる。君達は、漁師に天

     候のことを聞いたりしていないのではないのか。これで幡龍を失ったら切 

     腹じゃ 済まされねぇぞ。」


     幡龍はいまだに現れない。高雄の速力がどんどん落ちていく。高雄の作戦

     遂行は無理と判断した

     荒井海軍奉行は回天単艦でアボルタージュ作戦を行う決断をした。


土方総督  「荒井君、感情的になってるんじゃねぇのか。幡龍は箱館に戻ったのか  

     沈没したのかもわからねぇ。

     高雄は薩長に拿捕されるかも知らねぇ。そのうえ回天がアボルタージュ 

     に失敗したら軍艦なしになっちまう。頭を冷やしたらどうだ。」

甲賀源吾艦長「荒井さん、私も土方総督の言われることに賛成です。回天はアボルタ

     ージュには向いていません。」

荒井海軍奉行「土方総督、甲賀館長、このまま回天だけで箱館に戻っても完全に制海 

     権は敵のものになるだけでです。 作戦続行しなければなりません。」

土方総督 「俺は反対だ。そして俺は箱館に戻らなきゃならねぇ。この船が動かなく

     なったら困るんだよ。陸軍全体を指揮しなきゃならねぇんだ。大鳥では 

     無理なんだよ。」

荒井海軍奉行「この作戦の総指揮権は私にあります。また海軍のことには口出しはしないと言われていたではありませんか。計画は続行します。」


     荒井は完全に意固地になっている。だれが考えても分かることだ。

     海軍は足を引っ張る為に蝦夷に来たのか。      


三月二十五日 

五月六日

     荒井海軍奉行は午前五時宮古湾に向け出港した。マストにはアメリカ国旗 

     が靡いている。

     相馬主計、野村利三郎は甲板に立ち海原を見ながら話をしていた。


相馬主計 「土方総督、大丈夫なんでしうか。回天だけでアボルタージュが出来る

     のでしょうか。」

土方総督 「荒井は意地になっているんだ。俺達陸軍は船のことは分からねぇ。

     だが榎本海軍のやってることは理解できねぇな。わざわざ嵐の日に出向し 

     たり、江差に来る必要がねぇのにわざわざやってきて開陽を座礁沈没させ  

     たり、もし幡龍が沈没していたとしたら箱館湾は敵の好放題になっちま 

     う。」

野村利三郎 「土方総督、私はこの作戦で切込隊長にさせてもらいました。総督には 

     感謝しているんですよ。いい死に場所を与えてもらったと。でも無駄死に  

     になりそうだ。相馬さん、後のことは頼みます。」

 

     回天は宮古湾に近づいている。甲賀艦長が三人の所に来た。


甲賀艦長  「土方総督そろそろです。野村君よろしくお願いしますよ。私も甲鉄甲 

     板に移ります。私は、回天一艦でのアボルタージュは無理だと確信してい 

     ます。しかし決行と決まった以上、一番先に敵甲板に乗り移ります。土方

     総督、援護射撃よろしくお願いしますね。」


     甲賀艦長はさわやかに笑って野村利三郎の肩を叩いた。

     荒井海軍奉行がやって来て、「後十分です。」と言って来た。

     野村利三郎は土方に深々と頭を下げて「行ってきます。」と言って切込み 

     隊の方へ走って行った。」

     土方は野村に「死ぬなよ」とは言わなかった。否、言えなかった。

     回天がアメリカ旗を降ろして日章旗を揚げた。

     突然甲賀が叫んだ。


甲賀艦長  「荒井さん、甲鉄の甲板が三メートル低いっ。」

土方総督  「荒井っ、作戦中止しろっ」


      回天は、甲鉄に対して「丁字」の形でぶつかった。乗り移るには最悪の

      形だ。

      野村利三郎切込隊が甲鉄甲板に飛び移った。甲賀艦長も飛び移った。

      土方は大声で「援護射撃っ1」と叫んだ。甲鉄に向かって猛射が続いた。

   敵も切込隊に対して猛射している。


相馬主計  「野村っ、引き返せっ、縄梯子をを下ろせっ、兎に角撃ちまくるんだ

     っ、、野村っ」 


      甲賀艦長が胸に被弾し倒れた

     野村も数発被弾し壮絶な戦死を遂げた。新政府軍の他の艦船からも砲撃が 

     はじまった。

  荒井海軍奉行は甲鉄から離脱した。およそ三十分のことだった。

     甲賀艦長・野村利三郎・矢作仲麿・高木文八・笹間金八郎・布施半・小 

     幡忠甫ら十九名が戦死した。

     速力を落としていた高雄も新政府軍の春日に追撃され、田野畑村羅賀浜で 

     座礁させ船に火を放った。

      乗組員は盛岡藩に投降した。


     甲鉄にはガトリング砲があったと記述されているものがあるが、ガトリ 

     ング砲はなかったようだ。

     大失敗に終わっただけではなく取り返しのつかない敗北となった。


土方の日記

      久しぶりに日記を書こうと思った。

      荒井はどう責任を取るのか。腹を切ったからといってもどうしようもね 

      ぇ。

      兎に角、無茶苦茶すぎる。あんな突込みしか出来ねぇんならやらなきゃ

      よかったんだ。切り込んだ奴らはどうやって回天に戻ってこれるんだ。

      俺は荒井を絶対許さねぇ。

      野村のさわやかな笑顔が脳裏から離れねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る