第25話 游軍隊士斬首
一月十四日
二月二十四日
朝七時、五稜郭に向かって出発した。
二月二十四日 昼過ぎには五稜郭に着いた。解散し守衛新選組の連中と
弁天岬砲台に向かった。
森常吉 「土方総督、お疲れのところ申し訳ないのですがよろしいですか。」
土方総督 「どうした。」
森は守衛新選組の連中にも声をかけて別室に伴った。
森常吉 「游軍隊が動いています。先月人足として採用した者の挙動がおかしい
ので尋問したところ口を割りませんでした。痛めつけたところ「自分は
突撃隊士だ、新政府軍が攻めて来たら弁天岬砲台は大混乱し大敗を期す。
覚悟しておけ。」そうわめいて舌を噛んで自害しました。」
島田魁 「どういうことだ。」
土方総督 「ここに来てから採用した者達に動揺はあったか。」
森常吉 「三名が逃亡しましたがそれ以外は変わりないと思われます。」
蟻通勘吾 「土方総督、既に砲台も完成しております。ここで新規採用した者達を
解雇してはいかがでしょうか。」
土方総督 「蟻通の意見を採用してはどうだろう、森君。」
森常吉 「そう致します。」
土方総督 「大混乱をきたすとはどういうことだと思う。」
角谷糺 「土方総督、大砲に仕掛けをするとかが考えられるのではないでしょう
か。」
土方総督 「森君、大砲を総点検してくれ。そして二十四時間体制で警備させ
ろ。」
森常吉 「了解しました。」
土方総督 「島田、蟻通、角谷、市中見回りの人数を増やしてくれ。三日以内に游軍
隊隊士を捕縛しろ。そして即座に首をはねて曝せ。いいな。」
島田魁 「了解しました。」
土方総督 「島田、市村鉄之助、和田市蔵を始め十代の若い隊士を連れて武蔵楼に
行って来てくれねぇか。女を抱かせてやってくれ。一泊して来い。森には
俺の方から言っておく。」
島田魁 「土方総督が連れて行かれた方が彼らは喜びます。」
土方総督 「島田、俺はもう女はやらねぇ。知ってんだろうが。頼んだぞ。お前も楽
しんで来い。」
土方は、島田に茶巾袋を渡した。
そして柳川熊吉に会ってくると島田に言っ外に出て行った。
土方総督 「親分さんは居るかい。」
勝手にいつもの部屋に向かった。部屋には大岡助右衛門がいた。
土方総督 「突然きちまったが改めた方がいいかな。」
柳川熊吉 「先生の話をしていた所だよ。さっ中に入っておくんなさい。」
大岡助右衛門「お忙しいようですな。」
土方総督 「やるべきことはやっておく。昔からそうなんだよ。」
柳川熊吉 「先生、何が食いたい。」
土方総督 「柳川鍋出来るかい。」
柳川熊吉 「大丈夫だ。用意させるよ。」
柳川熊吉 「今日はゆっくりして行けるんでしょうな。」
大岡助右衛門「今日はゆっくりしていって下さいな。」
土方総督 「そうさせてもらうよ。」
柳川熊吉 「ところで今日はどのような用件で来られた。」
土方総督 「游軍隊のことで来た。游軍隊のアジトを教えてもらいてぃ。十人ほど
捕縛してぃんだ。」
大岡助右衛門「仮に十人捕縛したとしてどうなさる。」
土方総督 「首を撥ねて曝す。游軍隊が我が陣営にかなり入り込んでいる。そして
悪さしている。」
柳川熊吉 「そこまでしなきゃならねえんですかぃ。」
土方総督 「奴らが新政府に対して情報提供だけしているんならそこまではしねぇ
が、かなり大胆な動きになっている。」
大岡助右衛門「先生、勝てる見込みはあるのかい。」
土方総督 「ない、俺は薩長のやり方に一石投じてぃんだ。薩長に対して堂々と戦
う。薩長を散々苦しめる戦いをするんだ。」
そして我が軍の戦傷者を出来るだけ少なくする戦をやる。江刺まで行って
全隊にそういうことが可能な作戦を言ってきて戻ったばかりだ。その為に
も游軍隊にこれ以上変な動きはしてほしくねぇ。」
柳川熊吉 「分かった。亀田八幡さんの近くに江差屋という店がある。常時十人以
上の游軍隊隊士と称する者が詰めていると言うことだ。狙い目は早
朝。」
土方総督 「親分、すまねぇが弁天に使いを出してくんねぇか。島田にここに来るよ
うにと、頼む。」
柳川熊吉 「分かりやした。」
川鍋の準備が出来たと言ってきた。
いい臭いがする。棟梁と親分はは酒が用意された。
柳川熊吉 「先生、勝手にやらしてもらうよ。」
二人は酒を飲み始めた。
大岡助右衛門「先生、差し支えなかったら京都の話をしてくれませんか。」
土方総督 「京都のどんな話がいい。」
大岡助右衛門「なんでもいいですよ。」
土方総督 「今は新選組と呼ばれているが京都に入ったころは壬生浪と呼ばれて
恐れられていた。いろんなことがあって今の新選組になった。局長は近藤
勇、俺は副長で鬼の副長と陰口をたたかれていた。尊王攘夷とか天誅と
かいう輩が京都で好き放題し始めたころだよ。新撰組はそいつらを取り
締まるのが仕事だった。新撰組を盤石な物にする為に局中法度なるもの
を作った。士道に反する者は切腹。
今の俺は三千人の兵隊を仕切っている立場だ。
大岡助右衛門「先生、変なことを聞いちまった。すまねぇ。」
土方総督 「構わねえょ。」
島田魁が来たことを告げてきた。
土方総督 「島田、游軍隊の情報が入った。場所は亀田八幡宮の近くに江差屋と言
う店がある。そこがアジトだ。明日、早朝に捕縛しろ。捕縛引き回し。
その後、大森浜にて全員斬首、そして曝せ。
俺は一本木関門で待っている。抜かるなよ。」
島田は帰って行った。
土方は部屋に戻って柳川熊吉の武勇伝を聞かせてくれと言い出した。
親分の話は面白かった。大岡助右衛門が合の手を入れる。久しぶりに
楽しんだ。
土方の日記
親分も棟梁も漢だな。おれと同じ血が流れている、そう思える。
後、何回会えるだろうか。
明日は大捕り物になるだろう。捕縛された奴には気の毒だが死んでもら
う。游軍隊の動きを鈍らせる、その為の斬首だ。
一月十五日
二月に十五日
土方は、朝六時に一本木関門に 向かった。
市村鉄之助が土方のそばに駆け寄ってきた。
市村鉄之助「土方総督、島田頭取からです。游軍隊十三人の捕縛に成功しました。
市中を回って一本木関門に入ります。その後大森浜に向かいますとのこと
です。」
土方総督 「鉄之助ご苦労だった。島田の働きはすごかっただろう。」
市村鉄之助「あの体格で恐ろしい顔されたら動けません。今日の敵もそうでし
た。」
土方総督 「鉄之助、五稜郭に行って榎本・大鳥に大森浜に来るように伝えてくれ、
馬を使え。」
市村鉄之助「行ってきます。」
土方総督 「蟻通、お前の小隊で市中に正午に大森浜で游軍隊隊士十三名の処刑を
行う。と言い回ってこい。市蔵、島田は今どの辺かわかるか。島田に会っ
て大森浜処刑場に十一時に着くようにしろと伝えろ。」
和田市蔵 「馬をお借りします。」
土方は新撰組第二分隊を率いて大森浜に向かった。
土方総督 「分隊長、腕に覚えのある隊士十五名用意しておけ。一刀太刀で首を跳ね
なきゃならねぇ。しくじりは許さん。それから游軍隊が救出に来るかも
知らねぇ。千代台から銃隊一小隊を借りて来い。中島殿に直接会って事情
を言って借りて来い。」
榎本総督、松平副総督、大鳥陸軍奉行、永井箱館奉行がやって来た。
榎本総督 「土方総督、何故この様なことをするんですか。挑発しすぎではないの
か。」
土方総督 「榎本さん、五稜郭内部に游軍隊の者が紛れ込んでいるのは知っている
か。大鳥君はどうなんだ。」
榎本総裁 「五稜郭内部にその様な者は居ませんよ。」
土方総督 「大鳥君、お前さんのところに小柴長之助っているよな。最近その配下
に荒尾勇次郎ッて野郎が入ったな。そいつは游軍隊隊士だよ。
小柴は探索掛の責任者だろう。五稜郭の中枢に患者を入れてどうするん
だ。誰かを走らせてそいつを捕縛してここに連れて来いよ。」
榎本さん、弁天台場にも間者がいた。敵は俺達を舐めて居る。だからや
らなきゃならねぇんだ。」
島田魁が十三人の游軍隊隊士を連れてきた。
その後ろには市中の住民が何百 人も付いて来ていた。
土方総督 「島田、こいつらをきれいにしてやれ。十二時に処刑する。介錯役はそろ
えている。」見学者の中には游軍隊隊士が混じっているかも知らねぇ。
警戒に当たってくれ。それと中島殿から銃隊一小隊を借りた。お前の隊に
組み入れろ。」
千代台から銃隊が到着した。早速島田が銃隊隊長と打ち合わせを進めて
いる。弁天台場から介錯役十五名が到着した。顔ぶれを見て「こいつら
なら失敗はない。」と思った。
風が出てきた。雪も降り始めた。海が荒れている。
住民は何も言わず柵にしがみついている。十三人が横になって正座してい
る。
号令で一斉に刀が振り下ろされた。あっという間のことだった。
五稜郭に捕縛に行っていた隊士が帰ってきた。荒尾勇次郎なる者は逃亡し
たようであった。十三人の首は一本木関所に曝された。
群衆は寒さに震えながら散っていった。
土方の日記
京都では毎日のように晒し首を見てきた。だが十三人もの曝し首は見た
ことがない。
まして箱館の住民にしたら初めて目にしたことだろう。
これで游軍隊がおとなしくなるだろうか、反対に敵対心を募らせてくる
のか、だが游軍隊はせいぜい百五十人足らず。表立っての戦働きは出来ね
ぇ。 奴等が出来る事は情報収集と工作活動くらいだろう。
一番狙われるのは弁天台場だろう。薩長にしてみたら弁天台場が機能低下
もしくは戦う前に破壊されていたらいうことはねぇはずだ。
わずかな人数で台場を破壊するなんてことは出来ねぇ。大砲に細工をして
使えなくする。これだな。毎日点検させればいいだけのことだ。
今日、斬首した遊撃隊隊士は、斎藤久七郎・小牧平蔵・中野政 吉・長
沢忠蔵・吉田豊吉・幸平・善助・新次郎・重造・常吉・市兵衛・庄兵
衛・安兵衛。
十三人のうち八人が町人だった。
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