第21話  ガルトネル兄弟

一月六日  

三月十六日

     土方は榎本に五稜郭に来るようにと言われたので五稜郭に向かった。

     中島三郎助も呼ばれたのか途中で出会った。

土方総督  「榎本に呼ばれたのかい。」

中島三郎助 「青森奇襲の件でしょうかね。」

土方総督  「それはないね。」


      二人は馬を並べて何故、榎本が青森奇襲を嫌ったのかを話した。


土方総督  「中島さん、新政府の立場で考えてくれねぇか。薩長が上陸して戦をす

     る。俺達が青森を奇襲してやっと手に入れた最新式の武器を木っ端微塵に 

     されたとしたらどうだ。

     榎本はその辺のことを考えたんだと思う。どのみちこの戦は勝てねぇ。

     降伏ってことになる。

     奴はこれっぽっちも死ぬつもりはねぇ。同じ負けるにしても戦で負けるの 

     と相手のいいなりの金を要求されて買った武器を破壊されたとしたら。 

     そうなったら戦は長引くことになる。薩長はこの戦をさっさと終わらせ

     たい。長引いても俺達は負ける。何度も言うが榎本は生きたいんた゜

     よ。

     榎本達は薩長によく頑張った。本来なら斬首であるが国のために尽くして  

     くれるのなら投獄で済ます。

     あいつ等はこんなことを考えたんじゃねぇのかな。勘ぐりすぎかね。」

中島三郎助 「土方総督、貴方は恐ろしく先が見える方だ。敵じゃなくて良かっ 

     た。」


     二人は五稜郭に着いた。榎本の部屋に行こうとしたら客室に行くよう言 

     われた。

土方総督  「榎本さん今日は何だい。」

     部屋には二人の外人が座ってい た。

総裁総裁  「土方総督、中島さん紹介します。箱館プロシア領事館副領事のコンラ 

     ート・ガルトネルとプロシアで農業を指導しているラインホルト・ガルト 

     ネルです。」

土方総督  「この二人が何の用なんだい。」

榎本総裁  「二人は七重に西洋式の農場経営したいので土地を貸してくれないかと  

     言って来たのです。借りたい土地の規模は三百万坪だそうです。」

土方歳三  「俺たちにどんな得があるんだい。」

榎本総裁  「二人は賢いです。局外中立が無に帰し新政府軍が有利になったことを 

     すでに知っています。我々に武器を売ってくれる国がどこにも無いこと 

     も。そこで彼らが持ち込んできたのは、隠密裏に武器を用意すると言う  

     のです。軍艦・大砲は用意出来ないが小銃・弾薬なら用意出来ると言うの

     です。

     その代わり三百万坪の土地を九十九年間租借と言うのが条件です。」


     土方は即座にガルトネル兄弟に握手を求めた。

     ガルトネル兄弟は少し驚いたようだが笑顔になって土方に握手した。

     土方にしてみたら土地なんてなんぼでも貸してやればいい。俺たちが欲し 

     いのは今度の戦を少しでも有利に戦える武器が手に入るならいくらでも握  

     手する。


榎本総裁  「これから私の言うことを二人に通訳してほしいのですが。

      ガルトネルさん、契約の調印を二月十九日とさせてください。非常に縁 

     起の良い日なので。

     日本人は縁起を大切にする民族なのです。二月十九日に小銃一万丁・銃弾 

     に十万発。小銃は一丁七両で買わせて頂きます。如何ですか。」

コンラート 「分かりました。至急準備しましょう。榎本総裁、七重の土地の場所は

     兄に決めさせてください。

     それと武器の荷下ろしは大っぴらに出来ません。弁天岬台場から指定 

     する場所に小舟でに取りに来て頂けますか。万が一他国の商船に見つか 

     れば私達は日本で商売が出来なくなりますので。

     ほかに必要な武器がありましたら五日以内に領事館に来てください。

     用意出来るかどうかは分かりませんが頑張りますので。」


     二人は喜んで帰って行った。榎本は、得意満面と言う顔をしている。

      別に大したことじゃねぇと思いながら土方は榎本に言った。


土方総督  「ありがとうょ。おかげて銃の訓練が出来る。二月下旬にやらしてもら 

     うがいいよな。」

榎本総裁  「思いっ切りやって下さい。その日は私も見学に行かせてもらいま 

     す。」

土方総督  「大鳥君、あんたの名前で射撃訓練を発令してくれねぇか。三月一日。

     場所は四稜郭、詳細は後日発表これで頼むよ。」


土方の日記

     小銃が手に入ったことは大きな収穫だ。これで二股口は勝てる。

     だが、木古内、矢不来、有川は敵艦からの艦砲射撃が脅威だ。どうして

     もストーン・ウォール号をぶん取らねぇといけねぇ。


      アボルタージュは艦砲の命中率が低かった時代によく用いられた戦法だ 

     が、火力と機動力の優れた機走軍艦が普及した近代以降移乗攻撃は正規

     軍同士の海戦ではとんど見られなくなった。フランス海軍士官候補生ニ

     コールの生まれる三百年以上昔の戦法だった。


一月七日  

二月十七日

     土方は五稜郭の荒井海軍奉行を訪ねた。

     アボルタージュに関することを教えてもらうためだ。

土方総督  「荒井君、アボルタージュのことだが今どこまで進んでいるんだ。」

荒井海軍奉行「今、計画を整理しているですが御意見を聞かせて下さい。

     先日、土方総督が青森の情報を報告されましたが、その中でストーン・  

     ウォール号は三月中旬には青森に到着するとおっしゃっていたので、

     アボルタージュ決行を三月中旬にしようと考えています。

     奇襲は、回天・幡龍・高尾の三艦で行います。

     ●回天  荒井海軍奉行・艦長 甲賀源吾・海軍兵二百名・ニコール士 

     官候補生・土方総督・相馬主計・野村利三郎・彰義隊十名・神木隊三十 

     六名。

     ●幡龍  艦長 松岡磐吉・クラトー・海軍兵百余名・新撰組十名・彰

     義隊十名・遊撃隊十二名。

     ●高雄  艦長 古川節蔵・海軍兵七十名・子ラッシュ・神木隊二十五

     名。


     ストーン・ウォール号に接舷するのは、スクリュー式小型艦の幡龍と高

     雄が行う。

     大型の外輪船の回天は、接舷に向いていない。それにストーン・ウォー 

     ル号の甲板より回天の甲板は三メートル高い。

     回天から飛び降りたとしても回天に戻ってこれないことも想定される。

     回天・幡龍・高尾の順で艦を大縄で繋いで一列縦隊で航行する。

     途中鮫付(青森県八戸市)に寄港し情報収集をする。

     以上です。如何ですか。


土方総督 「陸軍は、敵の船に飛び乗って敵を倒すだけ、そう思っていいんだな。

荒井海軍奉行「それで結構です。何か出てきましたら相談させて頂きます。」


土方の日記

     やるべきことはやった。後は各隊と最終打ち合わせをするだけだ。

     守衛新選組を連れて各隊の視察に行こう。明日、榎本に視察することを 

     伝えさせ、明後日出発しよう。

     有川・矢不来・木古内。福島・松前・江差・二股口・七重・・大川・五 

     稜郭で行こう。

     室蘭に行ってもしょうがねぇ。澤太郎左衛門他二百五十人は一月二十五  

     日に室蘭に行くことになっている。

     何をしに行くのやら。

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