第16話  榎本武揚の悪政と箱館市中での評判


十二月二十七日

二月八日 

     土方は、朝一番で弁天岬台場に行った。土方は行くことを連絡しておいた 

     ので全員揃っていた。

     森常吉、島田魁、角谷糺、蟻通勘吾、大野右仲、相馬主計、安富才助、

     野村利三郎。滝川充太郎が部屋で待っていた。


土方総督  「森君、昨日のことは話しておいてくれたか。」

森常吉   「はい、一通り伝えております。」       

土方総督  「滝川君、済まねえが手を貸してくれ。」

滝川充太郎 「はい。」

土方総督  「新撰組は榎本軍の不正を撲滅すること。これから榎本のところに行っ  

      て新撰組局中法度を適用させる。

      滝川君の隊は游軍隊退治を頼む。徹底してやってくれ。それと榎本軍全

      体の日程表を変更する。全員を訓練漬にする。」

島田魁   「新撰組局中法度復活ですか。」

土方総督  「こうでもしなきゃあ、悪さする奴が減らねぇ。森君、滝川君、連携 

      密で頼む。」


      土方は五稜郭の榎本の部屋に直 行した。


土方総督 「皆さんお揃いでしたか。」


     相変わらず、榎本、松平、永井、大鳥が何か打ち合わせをしていた。


土方総督 「榎本さん、市中での榎本軍の評判を聞いているか。」

榎本総裁 「何かあったのですか。」

土方総督 「あんたらが考えて実行に移した税の取り立て、私鋳金のばら撒き、予想

     以上に評判が悪い。それを游軍隊があおっていやがる。それと、榎本軍兵 

     士の悪行の数々。聞いてねぇのかぃ。」

永井玄葉 「市中取締役の土方さんのお仕事なので控えておりました。」

土方総督 「すでに指示は出してある。俺が言いてぃのは軍の乱れだ。やりてぃ放題  

     している。榎本さん、榎本軍全体に俺が作った新撰組局中法度の榎本軍版 

     をこしらえるぜ、いいよな。」

榎本総裁 「それはどのようなものですか。留学していたので存じません。申し訳な

     い。」

大鳥総督 「土方君、ちょっとやりすぎじゃないのかね。」

土方総督 「このままで行ったら第二、第三の游軍隊を作らせることになるんだ

     よ。いいのかい。」

榎本総裁 「至急原案を作成してくれませんか。」

土方総督 「わかった。それから全体の日程表を作り直す。教練が一日たったの二時

     間だ。作り直すが問題はないな。」

大鳥総督 「鍛えるのは大歓迎です。あなたの名前で全軍に通達してください。

土方総督  「榎本さん一月五日の大砲訓練が終わったら青森、弘前に行ってくる。

     九日には帰ってくるよ。」

松平副総裁 「土方総督、それは危険です。無茶ですよ。」

土方総督  「松平さん大丈夫だよ。俺はヘマはやらねぇ。よっぽど天候が悪かった 

     ら延期するが。いいだろう、榎本さん。」

榎本総裁  「駄目だと言ってもあなたは行くでしょう。止めませんよ。ただし、く

     れぐれも注意してくださいね。」

土方総督  「ありがとうよ。大鳥さん九日までに帰ってこれなかったら射撃訓練は

     延期にしてくれ。頼んだ。」


     土方は榎本軍法度の作成にかかった。

     面倒くさいことはどおでもいい。新撰組が榎本軍に変わっただけだ。

      

     一、 士道を背くこと

     一、 隊を脱すること

     一、 勝手に金策をいたすこと

     一、 勝手に訴訟を取り扱うこと

     一、 死闘を禁止すること


     違反した者は切腹を命じる


     明治元年十二月二十七日


     以上を榎本軍中法度とする。


     陸軍奉行並 土方歳三


     土方は、これで少しはおとなしくなると確信していた。

     次に兵士の日程表の作成に取り掛かった。

     蝦夷地上陸時に大津鳥圭介が全軍に通達した時間割は教練が一日二時

     間しか組み込まれていなかった。

     土方は、このような体たらくだから兵士たちが時間と体力をもてあそん

     でいると決めつけ、以下のように時間割の変更を通達した。


     五時三十分    起床

     六時       朝食

     七時       砲台・胸壕工事

     十時       休憩

     十時三十分    小銃訓練

     十一時三十分   剣術訓練

     十二時三十分   昼食

     十三時      砲台・胸壕工事

     十五時      十五キロ走破

     十六時三十分   夕食

     十七時      清掃

     十七時三十分   自由時間

     十八時三十分   小銃・刀手入れ

     十九三十分時   自由時間

     二十時三十分   就寝


     この時間割を守らなかった者は十日間独房に入れるものとする。

     射撃訓練で八割命中出来た者のみに休暇を与える。

     各隊の頭取が隊全体を管理する。

     不正は厳罰に処す。


     明治元年十二月二十七日

     陸軍奉行並土方歳三


榎本総裁  「土方さん、少し厳しいのではありませんか。」

土方総督  「昨日も言ったが時間を余して悪さするよりましだよ。榎本さん、責任 

     は俺が持つ。」

榎本総裁 「分かりました。全軍に通達しますよ。」


     この通達を聞いた各隊隊士達は震え上がった。新撰組局中法度のことは 

     あまりにも有名であった。

     そして土方が作った法度なのだから間違いなく実行すると思えた。

     また、時間割に関しても表立って文句を言う者は一人もいなかった。

     土方は古参新撰組隊士に土方が如何にに恐ろしい新撰組副長だっ以下に 

     潮するように指示した。


土方の日記

     やることはやった。今この時期に局中法度を持ち出すとは思ってもみなか 

     ったが、これで少しは静かになるだろう。法度を破った者が出たら斬

     首。それで解決する。


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