第13話 出来レースの組閣・土方派軍議・柳川熊吉の返答
十二月二十二日
二月三日
五稜郭に入った。
今日は役職を決定する会議がある。土方には、まるで興味がないことだ
ったが榎本との約束(陸軍のことに関しては一切口を 出さない)それを確
認するために来た。
部屋には入札に参加する者が集まっていた。伊庭八郎と目が合ったので手
招きした。
全員揃うまで伊庭と話しをしようと思った。
伊庭八郎 「土方先生、来るのが遅れて申し訳ありませんでした。」
土方歳三 「大変だったな。」
伊庭八郎 「あの日、嵐に巻き込まれて海に投げだされました。もう少しで死ぬとこ
ろでした。何人も海に呑み込まれてそれっきりの者、何とか上陸しても捕
虜になった者、めちゃくちゃでした。
私は本山小太郎に助けられて横浜に潜伏していたんです。何とかアメリカ
の商船が箱館に行くという情報を得て本山と二人で来ました。沈没した
美香保丸には、多くの武器弾薬が積み込まれていました。
海の藻屑ですよ、悔しくてたまりません。
話は変わりますが松前・江差の完勝おめでとうございました。人見君から
聞きました。土方先生の作戦通り行ったと。
私も一緒に戦いたかった。」
土方歳三 「伊庭、これからいくらでも戦えるさ、頼むぞ。」
全員集まったと知らせが来たので着席していた。
土方の席は最前列の中央だった。
隣には中島三郎助が座っている。
榎本武揚 「それでは役職を決めていきますのでよろしくお願いいたします。大鳥君
後は頼みます。」
大鳥圭介 「先日行った入札から一週間経ちました。一応榎本さん、松平さん、永
井さん、そして私で案を作成りましたので、まずそれを披露いたします。
また、二十八日もこの会議を予定していますが出来る事なら今日で決めた
いと思っております。それでは発表していきます。」
総裁 榎本武揚 外交上では海軍総裁とする場合がある。
副総裁 松平太郎 外交上では陸軍総裁とする場合も ある。
陸軍奉行 大鳥圭介
陸軍奉行並 土方歳三 箱館市中取締裁判局頭取兼務
海軍奉行 荒井郁之助
箱館奉行 永井玄葉
箱館奉行並 中島三郎助
松前奉行 人見勝太郎
江差奉行 松岡四郎次郎
江差奉行並 小杉雅之進
開拓奉行 澤太郎左衛門
組頭 雑賀孫六郎
調役 緒方幸次郎 以上室蘭在陣
会計奉行 榎本対馬 川村碌四郎
仏士官隊取締役ブリュネ
仏陸軍士官 フォルタン、
マル ラン、カズヌーブ、
ブッフィエ、
仏海軍士官 ニコル子ラッシュ、 クラトー
箱館病院院長 高松凌雲
病院掛取締役 小野権之亟
高龍寺分院長 赤城真一
閣外脚韻 旧幕府老中板倉勝 静(備中松山藩主)
旧幕府老中小笠原長行(唐津藩主世子)
元京都所司代松平貞敬(桑名藩主 旧幕京部若年寄並 竹中重固元会津藩家
以上とする。
大鳥は「何か質問及び意見はないか」と言い全員を見渡した。
「異議なし。」
大鳥は、安堵のしたように見えた。その時、
土方歳三 「役職に関しては意義はねえ。俺が聞きてぃのは、陸軍の作戦その他一切
に関しては口を挟まないという約束を確認してぃだけだ。榎本総裁どうな
んだ。」
榎本総裁 「皆さん、大鳥君と土方君は今後は総督とお呼びするよう徹底してくださ
い。ところで土方総督、ご質問ですが先日の軍議の作戦をベースにしてい
ただければ一切口出しはしないと皆さん前でお約束しますよ。」
土方総裁 「榎本総裁、昨日薩長は九千程度で攻めて来るという手紙を持たせたが
読んでもらっていねぇのか。
榎本総裁 「しっかり拝見させて頂きました。」
土方総督 「じゃぁ聞くが、何故決戦を前にして室蘭くんだりに貴重な兵隊を二百も
出すんだ。何故、間道に四百もの兵隊を駐屯させるんだ。納得出来るよ
うしっかり説明してくんねぇか。」
榎本武揚 「改めてお話しさせて頂きます。」
土方の顔が激しい表情になった。
中島三郎助は首を横に振ってうなずいた。土方はそれを見て自席に戻っ
た。急に土方が席に戻ったので会場が ざわついた。
大鳥圭介 「皆さん、静粛に。以上を持ちまして本日の会議は終了とさせていただき
ます。」
榎本、松平、永井そして大鳥が席を立って別室に移動していった。
中島三郎助が壇上に上がった。
中島三郎助「本多幸七郎君、滝川充太郎君、大川正次郎君、伊庭八郎君、春日左衛
門君、星恂太郎君、永井蠵伸斎君、、森常吉君、酒井良 輔君、人見勝
太郎君、以上の者は千代ヶ岡陣屋に来て頂きたい。」
中島三郎助は自席に戻り座ってい る土方に何事かささやいて退出してい
った。すでに部屋には誰もいない。五分ほどして土方も部屋を出て行っ
た。
土方は馬で千代ヶ岡陣屋に向かった。中島三郎助がみんなを陣屋に集
めた理由は分かっている。
土方が千代ヶ岡陣屋に着いた時、玄関の前に中島の倅二人が立っていた。
土方総督 「恒太郎、栄次郎、待たせたな。皆、来ているのか。」
中島恒太郎「土方総督、皆さん揃われています。」
土方総督 「以前の部屋か。二人もついて来い。親父さんをよく見ておけ。」
「皆、待たせたな。中島さん、早速始めてくれ。」
中島三郎助「では、始めさせていただく。ブリュネ大尉、榎本総裁、大鳥陸軍奉行の
作った戦闘配置によって君達の配置も決まった。そして各人の役職も決定
した。本日の会議で土方総督が榎本総裁に問い詰めたがすぐ自席に戻ら
れた。それには理由がある。
土方総督は榎本総裁を試されたのだ。そして分かったから席に戻られた。
そうですな、土方総督。」
土方総督 「今日、ここに読んでいない者がいる。もう気付いているかもしれねぇ
が、古屋君は読んでねぇ。そのことはこれから話すことでわかる。」
「榎本が何故あのような広範囲の配置図を作ったのか俺には解せなかっ
た。そして考えに考えた。
それで行き着いた。あってるかどうかは分からねぇ。また、あってたとし
ても何も変わらねぇ。
ただはっきり言えるのはすっきりして戦えること、そして作戦が立てやす
くなったってことだ。
これからいうことはここだけの話しだし、ここを出たら忘れてしまえ。
今まで通り接して今まで通りやっていく。それが出来ねぇ奴は今ここから
出て行け。」
一人も動かない。固唾を飲んで土方を見つめている。
土方は、中島恒太郎と栄次郎に全員分の茶を持ってくるよう頼んだ。茶が
来るまで休憩とした。
誰一人喋るものはいない。
お茶が全員に配られた。
土方総督 「人見君、榎本の部隊配置をどう見た。」
人見勝太郎「あれは机上の作戦であって実践的ではないです。松岡さんともかなり詰
めて話しましたがあれでは上陸部隊がどこに上陸するのか皆目見当がつか
ない、だから考えられる上陸予定地全てに兵を配置する。
短絡的としか言いようがありません。
土方総督 「滝川君、君はこの中で誰よりもブリュネ大尉と接している。榎本は今回
の部隊配置はブリュネ大尉を中心に作成した。と言っていた。ブリュネ大
尉はあのような配置を考えるような男なのか。」
滝川充太郎「ブリュネ大尉は歩兵ではなく砲兵です。我が軍の砲兵隊も同様ですが
陸軍歩兵軍の参謀長とその部下達が作戦を作っていきます。砲兵はその出
来上がった作戦に沿って砲台、陣地を構築します。それにヨーロッパの戦
闘規模は日本の比ではないと聞いています。
我々にとっては広範囲と思っても彼らにとってはあのような配置は当然
なのだと思います。ただ、兵数を考慮していたのかは疑問です。」
土方総督 「人見君、滝川君、わかった。 永井君はどう思う。」
永井蠖蠖伸斎「ブリュネ大尉がどうであれ普通じゃないですね。鷲ノ木には上陸する
訳がない。三千人しかいない兵数に対して五分の一を意味のない場所に張
り付ける。そうしなければならない何かがあるのではないのか、そう勘
ぐってしまう。そのくらい馬鹿げているということです。」
土方総督 「永井君、不思議で馬鹿げている。俺もそう思った。だからなぞ解きをし
てみたんだよ。なんで誰もが思う馬鹿げていることを平気でやるのか。
否、「やる」じゃなく「やらなければならない」のか。
俺と中島三で出した答えは榎本達はこの戦で負けても生き残ろうとしてい
るんだよ。」
部屋が騒めいた。
星恂太郎 「土方総督、いくら何でもそれはないでしょう。仮に負けたとしたら敵
に投降し処刑される。それが嫌なら総裁として自決でしょう。逃亡はない
のでは。」
土方総督 「普通ならそうだ。だが榎本は普通じゃねぇのさ。榎本はオランダで六
年間死に物狂いで勉強してきた。榎本は、その六年を無駄にしたくね
くねぇんだ。すさまじい執念を感じる。開陽が沈没した時から榎本は
この戦勝てねぇと確信したんだろう。薩長とは真剣に戦う。だが自分は
生き抜く。生き抜くことが可能なのがあの部隊配置なんだよ。榎本は敵
が七重・大川を抜いた時点で五稜郭を密かに出る。
榎本、大鳥、松平、永井が逃げるんじゃねぇかと思っている。」
春日左衛門「土方総督、護衛なしでどうやって逃げるのですか。」
土方総督 「護衛ならちゃんといるじゃねぇか。湯川から川汲あたりまで行けば衝
鋒隊がいるじゃねえか。衝鋒隊に守られて鷲ノ木まで行く。そこには室
蘭にいるはずの澤太郎左衛門が長鯨丸で待機している。
調鯨丸に乗っちまったら脱出成功だ。その為に澤を室蘭、衝鋒隊を間道
に配置したんだよ。
みんなも知っての通り衝鋒隊は急幕府陸軍歩兵部隊だよな。古屋作左衛門
君がそそれをき継いだ。
それが衝鋒隊。古屋君は大鳥の子分だ。だから今日は呼んでいない。」
人見勝太郎「まだ、信じられませんが、もし五稜郭を抜け出せなく、降伏するとい
うことになったら薩長は榎本さんを許しちゃおかないでしょう。」
土方総督 「ここからは中島信、頼んだよ。」
中島三郎助「榎本さんは、オランダから帰国した直後は徹底抗戦的言動で将軍様に
も徹底抗戦を直訴していたと聞ている。しかし既に大政奉還後のこと
だった。そこで榎本さんは勝殿に泣きついた。そして自分がオランダで
六年間命がけで学んだことを執拗に勝に話す日が続いたと。
勝も最後には「いい加減にしろ」と匙を投げてしまったとのことです。そ
して榎本さんは勝殿に「西郷に合わせてくれ。」と頼んだそうです。
これには勝殿もびっくりして早々に榎本を下がらせた。と聞いています。
榎本さんは西郷に合わせてもらえるなんてこれっぽっちも考えていなかっ
た。勝の性格を熟知している榎本は勝に暗示をかけたんでしょうな。
オランダで学んだことを風潮し続けた。(私は国の為になる男だ。)そして
西郷に合わせてくれ。(私のことを紹介してくれ。)
榎本さんは頭の切れる人です。勝殿を誘導したんです。」
土方総督 「薩長の司令官は黒田清介、西郷のひぞっこだ。榎本は黒田にもなんら
かの手を打つはずだ。
勝は榎本のことを西郷に伝えるだろう。西郷の頭の中には、当然この戦
薩長が勝つと信じている。
勝ったのち蝦夷地開拓に着手するだろう。その時、開拓の責任者に黒田
を起用する。西郷、黒田にしてみれば榎本は利用する価値があると考え
る。榎本はそこまで読んでるんだよ。だが、榎本、大鳥は敵じゃねぇ。
榎本は、前線には出てこねえだろうな。大鳥は松前から有川のどこかを
指揮するだろう。
人見君、松岡君は江差を放棄せざるをえんだろう。。松岡君と連携して松
前を少しでも長く持ちこたえてくれ。死守することはねぇ。彰義隊、額兵
隊、神木隊、会津突撃隊、遊撃隊、陸軍隊はこれから納得いくまで軍議
を重ねてくれ。大鳥がどのような指示を出してくるかわからねぇ。
それに振り回されない作戦、連携 を徹底して落とし込んでもらう。
人見君、松岡君に伝えてほしい、 敵が艦砲射撃してきたら様子を見て砲
兵隊を松前に下げてくれと。
人見君も同様だ。形勢不利となったら砲兵全部を木古内に下がらせろ。
木古内を強固な台場にしておいてくれ。
春日君、砲兵隊に箱館湾の敵艦隊を射程出来る大砲を木古内と有川に設
置させておいてくれ。砲兵隊が何か言ってきたら俺の名前を出せ。」木古
内で敵を食い止める。矢不来、有川を守備している隊は全隊木古内に集合
させろ。
木古内が持ちこたえられねぇと感じたら、矢不来だ。兎に角、分散す
るんじゃねぇ。
有川が持ちこたえられなくなったら全員五稜郭だ。いいな。何度も言う
が、松前、福島、木古内、矢不来・有川でどう戦うか徹底的 に落とし込
んでおけ。。
股口方面は俺が指揮する。二股口方面の敵は千から千五百程度だと
思う。伝習士官隊二小隊、衝鋒隊二小隊、迷惑をかける気はねぇが予備
隊として、滝川君の伝習二小隊だ。やばくなってきたら伝令を走らせる。
そん時はすまねぇが頼む。」
中島三郎助「皆さん、ご理解いただけただろうか。土方総督も言われたが今日話し
たことがあっているのか、間違っているのかそれは問題ではないのです
ぞ。よろしいかな。」
土方総督 「今日は質問は一切受けつかねぇ。まずは、今日のこの話を頭に叩き込
んだうえで、持ち場ごとに連携して作戦を練り上げておいてくれ。近いう
ちに招集をかける。では、解散とする。」
市村鉄之助が待っていた。
土方総督 「どうした、鉄之助。」
市村鉄之助「土方総督、柳川の親分さんが家に来てもらいたいとおっしゃっていま
す。」
土方は緊張した。昨日の今日だ。やっぱり無理な頼みだったんた。兎に
角、急ごう。
土方総督 「すまねぇ、土方だが、柳川の親分さんはおいでか。」
昨日の部屋に案内された。
土方総督 「土方です。失礼します。」
部屋には昨夜同様三人が揃っていた。
柳川熊吉 「土方先生、忙しいところを来ていただき恐縮しております。早速ですが
昨日のお話なんですが先生が退席された後で三人で話し合いました。」
子分がお茶を持ってきた。
柳川熊吉 「結論から申し上げます。お引き受けいたしやしょう。我らが責任をもっ
てやらせていただきます。
大岡助右衛門「あっしらは土方先生に惚れちまったようだ。あんたは気持ちのいい
漢だよ。薩長がどう出ようが俺達はあんたと約束したんだ。必ずやりき
るとよ。心配しなさんな。。
日隆上人 「ちょうど坊主もいます。こんな仕事が出来るのも導きでしょう。」
土方は、泣いていた。縁もゆかりもねえこの俺の頼みをたった一日で引
き受けてくれた。
この人達は仏か。
土方総督 「柳川熊吉さん、大岡助右衛門さん、日隆上人さん、本当に忝い。
口じゃ言えねえですよ。これで何も思い残すことはなくなりました。
思う存分、戦えます。」
耳に入っているかもしれませんが、榎本が通行税や娑婆代とかを徴収する
という話が出ていますが、これに関しては俺の責任において 絶対やらせ
ない。約束します。」
柳川熊吉 「土方先生、よろしくお願いします。皆ほっとすることでしょう。そうそ
う、先生も忙しいでしょうが、一晩付き合っていただけないでしょうか。
実は私の作る柳川鍋は一級品なんでさぁ。是非、食ってもらいてぇんだ。
何時でもいいんだ。どうだい。」
土方総督 柳川鍋は大好物です。喜んで食せてもらいますよ。一人連れてきたい男が
いるんだが連れて来てもいかい。千代ヶ丘砲台を守備している中島三郎助
ですよ実にいい漢なんです。」
土方は柳川宅を後にした。
その足で千代ヶ岡陣屋に向かった。
雪がちらついているが寒くはなかった。土方は馬に揺られながら決戦の
ことを考えていた。
柳川の親 は約束してくれた。
これで思い残すことなく存分に戦える。
新撰組副長土方歳三として最後の戦だ。俺は、万が一、生き延びたとして
も捕縛されたら間違いなく斬首だ。薩長とは京都からの付き合いだ。
多くの薩長を殺してきた。
薩長に取ったら俺は殺しても飽き足らない男。
逃げる気はない。見事に散る、そして近藤さん、沖田が待っている場所に
いく。一本木関門あたりに差し掛かった時、馬首を弁天岬台場の方に変
えた。やり残していることに気づいた。佐野専左衛門に頼んでおかねぇと
ならねえことを思い出した。
佐野宅に着いた。
土方総督 「土方が来たと旦那に伝えてくれるかい。」
佐野専左衛門「土方先生、どうなされました。さっ、どうぞ中に入っておくんなさ
い。」
土方と豪商佐野専左衛門の関係。
新撰組が弁天岬台場の守備、市中 見回りの任務に就いた時、新撰組は
称名寺を宿舎にした。
その称名寺の近くに佐野屋があっ た。土方も箱館支柱見回りの任をす
る際、五稜郭から移動するのは不便ということで佐野屋(宅)を宿舎とし
た。土方と佐野専左衛門は妙に気が合ったようだ
また、佐野の家族・使用人達も土方に良くなついていた、土方にとっては
心休まる場所だった。
土方総督 「旦那、今日は泊めてもらうよ。それに話があるんだよ。」
佐野専左衛門「先生、お手柔らかにお願いしますよ。まずは食事にしませんか。」
土方総督 「旦那、食事は後でいいよ。昨日、今日と柳川親分、大岡助左衛門、
日隆上人とあっていた。三人にとんでもねぇ頼みごとをしたんだよ。雪解
けとともに薩長が攻めて来る。
敵は短期決戦を考えてるだろう。敵は九千から一万、こっちは三千。激し
い戦いになる。死者もかなり出るだろう。会津の戦いで会津藩は無条件
降伏をした。会津藩兵を始め会津藩に加担した諸藩の兵で戦死した者を
埋葬することを薩長は認めなかった。野ざらしだよ。今度の戦は最終的
には薩長が勝つだろう。当然会津同様、戦死者は野晒しということにな
る。だから柳川の親分に死体を埋葬してくれるよう頼んだ。それが昨日の
ことだよ。そしてさっき連絡があって親分に会いに行ってきた。
親分、棟梁、和尚三人が待っていてくれた。そして俺の頼みを快諾してく
れたんだ。
俺は泣いた。薩長からどんな仕打ちをされるかわからねぇのにも関わらず
だ。あの人達は漢だよ。
佐野専左衛門は、神妙に聞いている。
土方総督 「それで旦那に頼みっていうのは、俺の屍を薩長に取られたくねぇんだ。
だから旦那が俺の屍を拾ってくんねぇか。腐れ縁と思って頼まれてくれ
よ。」
佐野専左衛門 「ちょっと待って下さいよ先生。負けると言われましたがやってみな
ければわかりませんよ。それに先生が戦死するとも限らないし。」
土方総督 「俺は死ぬよ。思いっきり戦って潔く死ぬ。そして近藤、沖田のとこに行
くって決めているんだ。ただ、二股口では絶対死なんよ。最後の戦場は
箱館市中になる。そこで一世一代の戦をすると決めてんだよ。」
佐野専左衛門は土方の淡々とした話し方に「この人はすでに覚悟を決め
ている。清々しく見えた。
佐野専左衛門「先生、受けたまりました。必ず、敵の手には渡しませんから安心して
戦ってください。」
土方総督 「旦那、恩に着るよ。腹が減った、飯にしようゃ。」
土方の日記
今日は充実した一日だった。
榎本のことでは多少動揺した者もいたようだが話をしてよかったと思って
いる。今日集まった者が決戦まで榎本に会うことはそうないだろうし、
榎本の方から視察などするとは思えない。兎に角、彼らは横の連携を密に
して強固な陣地の構築に奔走することになるはずだ。
話しは変わるが、梁川の親分、棟梁、和尚には感謝しかねぇ。明日、榎
本に会って箱館市中の人から税金を取るのをやめさせなくちゃあの三人に
顔向けが立たねぇ。あの三人といい佐野専左衛門といい、本当にありが
てぃ。
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