第7話 入札
一一月一八日
十二月三十一日
土方歳三は守衛新選組を伴って松前に向かった。先着していた遊撃隊隊長
勝見勝太郎が出迎えてくれた。
人見勝太郎「土方先生、松前は大変です。市中の四分の三が焼失、住民は
着の身着のままで食うものがない状態です。無法地帯です。まずは住民に
対して出来る事をやるよう指示したところです。」
土方歳三 「住民には出来るだけのことをやってくれ。それと住民の動きにはくれぐ
れも注意してくれ。それから十二月十二日までに松岡君と五稜郭に来て
くれ。十五日に入札をすることになった。やることが山ほどあるのは分か
っているが部下達と松前をどう守るか纏めといてくれ。」
人見勝太郎「入札ですがどうなるんでしょうか。」
土方歳三 「一番上を総裁と言うらしいが榎本だろうよ。陸軍奉行は大鳥、海軍奉
行はだろ荒井だろう。」
人見勝太郎「土方先生は。」
「俺は、陸軍奉行並、大鳥の下らしい。だが、以前に言ったかも
しれねぇが陸軍は俺にゆだねるそうだ。」
人見君は松前奉行だろう、松岡君は江差奉行らしい。榎本は館城を落と
した松岡君をえらく気に入ったそうだ。二人とも大変だ。多分、薩長は
乙部方面に上陸すると俺は考えている。」
人見勝太郎「土方先生、五稜郭に行った時、松前、江差、福島、木古内方面を守備
する隊長を招集して下さい。」
土方歳三 「分かった。松前をよろしく頼む。五稜郭で待っている。」
十二月一日、榎本武揚は蝦夷開拓の嘆願書をイギリス及びフランス
軍艦に託したが、両国公使から嘆願書を受領した右大臣岩倉具視
は、十二月十四日これを却下する。
十二月中旬、土方は全軍と五稜郭に戻った。
一月中旬、土方が松前、江差で戦っていた時、新撰組本体は大鳥啓介の
傘下に入って大野口や函館市中の警備、弁天岬台場の守備を行っていた。
この時期の新選組のことを、新撰組隊士石伊通次郎(当時二十三歳)が書
き残している。
「五稜郭では、様式軍事教練を受け、弁天岬台場ではフランス人教官か
ら五稜郭同様の教練を受けた。
雨天の際は宿営(稱名寺)で技芸を習った。(技芸とはフランス語で言う
「号令」のことです。)
十二月十五日
一月十七日
榎本武揚はこの日、蝦夷地平定を祝った。弁天岬砲台、箱館湾に停泊
している軍艦から百一発の祝砲を撃たせた。
この日、榎本の言う選挙(入札)が開かれた。
土方はこう考えていた。榎本は入札はアメリカ、ヨーロッパで行われて
いるとても先進的なものだと自慢げに言う。しかしこの入札は形だけの
行為だ。先進的と言いながら徳川幕府時代の役職上席者順に決まると
思っている。
榎本は「新しいもの」、「平等」という言葉を前面に出しながら
榎下派一派を優遇しようとしている。「小賢しい男」だと思う。
しかし土方はどうでもよかった。陸軍に対して口出しさえしなけれ
ばいい。そう約束した。その約束を破ったらただじゃおかねぇ。それだ
けだ。今、榎本は壇上で入札が如何に素晴らしいかを謳っている。
参集した者すべてに札が配られた。その札に総裁にふさわしいと思える
人物の名前を書いて箱に入れる、それだけのことだ。
箱に収められた札の集計が終わった。投票数の多い順に発表された。
大鳥圭介が発表
榎本武揚君 百五十六点
松平太郎君 百二十点
長井玄葉君 百十六点
大鳥圭介君 八十六点
松岡四郎次郎君 八十二点
土方歳三君 七十三点
松平越中君 五十五点
春日左衛門君 四十三点
関広右衛門君 三十八点
牧野備前君 三十五点 (前長岡藩主 蝦夷地未渡海)
板倉伊賀君 二十六点
小笠原佐渡君 二十五点
津島章君 一点
計 八百五十六点
土方の予想した通りの結果だった。土方は早々に退出した。
土方の日記
今日の入札の結果、大鳥は俺の上につくだろう。
こんなことなら、松平越中と春日左衛門に手をまわしておけばよかった。
そんなことが頭を過った時土方は苦笑いを漏らした
役職を決めるのが二十二日と二十八日と言っていた。
さっき、中島三郎助に使いに出した市村鉄之助が戻ってきて中島との面
会の時間を伝えに来た。。
明日が楽しみだ。
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