第二部 あれが来たりこれが来たり
第1話 アポなしお宅訪問
ネヴィルの町の再建はつつがなく進んでいる。町を取り囲んでいる壁や建物の修復に加え、魔石採掘や加工施設の建造も始めたので、旦那様は大忙しのようだ。
大蛇の姿をしたキメラも再起動し、随分と使い勝手が良くなっていた。キメラに恐れをなした魔獣達が散り散りとなり、魔石を採掘してもそれらの襲撃に怯える必要はなくなったので、周辺の治安もすでに安定している。
「うわぁ~! 俺も見たいそのキメラ!!!」
ザップは珍しく興奮気味に目を輝かせていた。
「随分と古いキメラなんだろ? よく姿を保ってたな~」
「ミノは違ったの?」
私は久しぶりにダンジョンの第四階層でソロ活動していると、同じくミノタウルスのミノを連れてダンジョンに潜っていたザップに出くわしたので、そのまま一緒に探索をしていた。
ミノのなにが良いかって、夜間寝ている間の見張りをしてくれることだ。これまで私は日帰り冒険ばかりしていたので、長時間の休息への対策をする必要がなかったため、まだまだ試行錯誤中である。
「いや、ミノはたぶんキメラの中では最新型っつーか、最終形態だからか見つけた時もそれほど傷ついてなかったんだよ。けど発掘されるキメラのほとんどは一部壊れてるっつー話だぞ」
ザップはそれなりにキメラのことは調べているようだ。私も屋敷の図書室でキメラに関する資料を読んでみたが、人型等の知能の高い魔獣ほどキメラ化させるのが難しいという記述を見つけた。キメラは500年前の大戦を境に作り方がわからなくなっているので、人型魔獣ミノタウルスは最新作にして最終作品にあたると予想している。
「けどその大蛇。すげぇデカいんだろ? キメラにするにはよっぽどな魔石が必要だったんじゃねぇか?」
「ま。それは企業秘密ね」
「なんだそりゃ」
目の前の焚火がパチン! とはじける音がする。小さな鍋からは白い煙が上がっていた。
クリスティーナ様の魔石がブラッド領に送られたことは知れ渡っているが、流石に国宝級の品質とサイズであることは周知されていない。余計な欲を出す人間が出るのはまずいからだ。
「ネヴィルに行ってみたら? そんなに遠くないし」
「そうだな~この依頼終わったら行ってみるかな~」
そう言いながらザップは鍋の中をかき回している。さっきまでカチカチに乾燥していた具財が柔らかくなっているのがわかった。
「もういいんじゃない?」
「そうだな」
出来上がったのはリゾットのような食べ物だ。ブラッド領や私の実家のウィトウィッシュ領では見たことがない。ザップの故郷ではよくある料理だそうだ。匂いからして味にも大変期待が持てる。
「俺もダンジョンの中じゃこんな料理しないんだけどよ~今日はテンペストの防御魔法もあるし、ゆっくり食えそうだ」
彼はダンジョンに潜って5日目。そろそろまともな食事が恋しかったそうだ。ザップも魔術師だが、魔力量はほどほど。基本的に攻守はミノに任せているため、あまり余力はないのだと教えてくれた。
「防御魔法は便利だけど事前に気配探れるわけじゃないし、眠ってる時に一発デカいの貰うかもと思うとねぇ」
私はダンジョン2日目。これまでのように夜熟睡は出来ない。これが意外とくる……! まだ肉体が若いからそこまで影響がないが、長く冒険者をやるなら対策を講じなければ。
「やっぱパーティっていいわよねぇ。背中預けられる安心感というか」
ザップとミノはパーティではないが似たようなものだ。
「まあダンジョンの中ではどうしたって絶対はないけどな」
それはそうか……皆なかなかの緊張感の中で冒険してるんだな。私が甘かった。
「ほら」
そう言いながらザップは食器によそってくれた。三等分だ……三等分!?
「ミノも食べるんだ!?」
「おう。その方が調子よさそうなんなよな」
「へぇ〜って、じゃああの大蛇のキメラも食べるのかな!?」
そんなことになったらこの領の食料枯渇しちゃうじゃん! キメラの生態はわかっていないことが多いが、魔獣でもあると考えれば、確かに食べると言う行為は必要かもしれない。
(そんなこと考えもしなかった)
「いや、基本的にはやっぱりこいつらの原動力は魔力だよ。こいつが特殊なのか、人型魔獣が特殊なのか、それともキメラの作り方によって変わるのか……」
「確かめようがないのか~」
そうそう。と頷きながらザップはリゾットをミノのところへ持っていく。彼は今、側にある岩場の上から周囲を警戒してくれていた。
(見張りと防御魔法が今のところ一番安心感があるかも)
私の冒険者ランクはすでにB。前回、旦那様救出の功績は箝口令を敷いたため実績には反映されていない。あれからも冒険者としての活動は続けているが、残念ながらAとなるにはまだまだ足りない点が多いのだ。
『テンペストに実力がねえとは言わないが、タイミングがよかったってのはあるだろ』
『チャンスはきっちり掴むところは評価できる』
『まだまだ新人臭さがとれねぇよなぁ~』
と、時々冒険者仲間に言われる言葉に反論できないのが悔しい。
だが焦る必要はない。ネヴィルの再建は間違いなく年単位でかかる。今こそ地道な積み重ねをする時だ。あ~なんて私って強くて謙虚なのかしら!
(よし。新しい魔術を創ろう!)
魔術はなによりイメージが大事だ。それにはやはり今回のような、
(絶対旦那様との勝負、勝ってやる!!!)
そして名実ともに実力で自由と豊かな生活をゲットだー!!!
「いただきま~す」
私はお椀が熱々なのでフーフーしながら食べるが、ザップは熱いのが平気なのかパクパクと、ミノはどうやらゆっくりと食べ勧めているようだった。
結局、私は3日目にして屋敷へと戻った。エリスに風呂に入れられた後、泥のように眠りについた。
◇◇◇
「奥様! お疲れのところ申し訳ございません!」
ベッドの中でショボショボと目を開けると、慌てふためいたエリスが目の前にいた。
「ん……どうしたの?」
眠い。まだ寝たい。公爵夫人である私の眠りを妨げるってことはよっぽど大変ななにかがおこったということだと思うと、さらに起きたくない。
「お、お客様が……」
「お客様ぁ~?」
ネヴィルの町であったことは国内で知れ渡っており、旦那様に用事がある客人はこの屋敷へは来ず直接ネヴィルへ行っている。この屋敷に来る客人は彼の右腕のヴィンセントで対応できる程度しか来ない。
つまり! ヴィンセントで対応できないクラスの人物が来たと言うことだ。それもアポなしで。
(あー! 嫌すぎる!!!)
ぼさぼさになっている髪の毛を撫でつけながら、エリスの言葉の続きを待つ。
「第三王子がいらっしゃいました」
「……え?」
なんて言った?
「第三王子が奥様に会いにいらっしゃいました」
「……え!!?」
は? 私に? 旦那様じゃなくて?
「急ぎお着替えを」
「あ……はい……」
(なんだよもぉぉぉ! せっかく旦那様もいなくて悠々自適に過ごしてるのに~!!!)
ていうか、なんの用だよ!
とは言え権力者には逆らえない。私は渋々余所行きのドレスに着替えるのだった。
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