4章 この度、魔王に付き従うことに

第26話 三人で!

 おおまかにベルから過去の話は聞いた。

 俺も似たような出来事を体験したのもあってか、胸が締めつけられるようで苦しい。

 

 リーズも呆然と立ち尽くし、ずっと涙を流している状態だ。


 それだけ悲しくも残酷な百年前の真実。

 王国は百年前の事実を隠ぺいし、事実を書き換えていたのだ。


 俺も今は人間。

 だからどうこう言える立場ではないというのが本音だが、実際に心が痛むのは事実だ。

 村を焼かれ、両親を殺され、すべてを失った。


「……ベル、すまない。俺と同じ人間のせいで……」

 

「お主は何も悪くないのじゃ。こうして余を蘇らせ報復の機会を与えてくれたこと感謝はしても、恨むことはない」

 

「ありがとう、そう言ってくれると俺も嬉しいよ。ここにいる三人は目的も一緒であり、これから生きる時も死ぬ時も全員一緒だ。リーズもそれでいいか?」

 

「それでいいわ、よろしく」

 

「ああ、よろしく頼むぞ。リヒト、リーズ。そうじゃ、伝えるのを忘れておったが魔族が全員仲間という訳ではないからの。気をつけよ」

 

「へ? そうなのか? まあ、気をつけるよ」


 ……ということは、洞窟の前にいた魔族が味方だったのかもよくわからないということになる。

 

 だが、これで一通りの準備が整った。

 あとは魔国を再建し、軍を作り、王国に対抗しうる力を増強するだけだ。

 簡単ではないが、絶対やり遂げて見せる。

 

 そして、俺たち三人は今後の方針について話し合った。


「でだ、これからどうする? 二人とも」

 

「そうね、これからどうしようかしら……」

 

「一つよいかの? お主達」

 

「ああ、いいぞ」

 

「魔国ベリアルの跡地まで一緒にきて欲しいのじゃ。我々魔族が皆が眠る地、百年前殺された同胞たちに報告したいのじゃ。ようやく……巡ってきたのだと」

 

「ああ、わかったよ。その後のことはまた着いたら考えようか」

 

「感謝するのじゃ」


 ベルは魔法の詠唱を始めた。

 すると地面には古代語で書かれた魔法陣が浮かび上がり、蒼く輝き出したのだ。


「この文字どこかで……まさか!」

 

「さすがはリヒト。博識じゃな」

 

「むっ、何で、二人だけで盛り上がってるのよ!」


 どうやらリーズは俺とベルの会話に入れないことに不満を抱いているようだ。


「ならリーズは知ってるか? この文字のこと」

 

「そ、そんなの知ってるわよ……」

 

「なら、答えてくれ。この文字は?」

 

「ふ、ふん、なんで私が答えないといけないのよ!」


 リーズは目を逸らし、口を尖らせ口笛を吹き始める。この様子を見るにおそらくわからないようだ。

 

 面白そうなのでこの状況を利用して少しからかってみよう!


「仕方ないなぁー。博識の俺が無知なリーズちゃんに知識を与えようではないか!」

 

「うん、お願いします」


 うん? あれ? 何かがおかしいぞ。

 いつもならすぐに殴りかかってくるはずなのに……どういうことだ?


「いいか、よく聞くんだ。この文字は邪神文字というんだ。魔族と人間が生まれる前からあったとされている古代文字の一つで、最近だと主に魔族が使用していたとされる文字だ。他にも人間が使用する、まあ俺達の話している言葉女神文字とそう相違はないが……一部の表現方法が違うだけで分けられているんだ」


「ふーんそうなんだ、だったら最後のひとつは?」

 

「ああ最後は海に住む半魚人などが使用する海神文字だな。実際半魚人なんかに会ったことないからよくわからないけど、そもそもあいつらって話すのか?」


 俺はリーズからベルに目線を移した。


「余も会ったことないからの……よくわからんのじゃ。しかし半魚人に関しては人間や魔族が手を取り合ったとしても敵わないとまで言われておるほどじゃ。もちろんこの大陸を囲む広い海を支配する連中じゃ。もし見かけたとしても手出しをしないのが得策じゃな」


「ああ、確かにな……っで、どうかな? わかったかな? リーズちゃん」


 俺は再びベルからリーズに目線を移した。

 腕を組みドヤ顔でそう言ったのだが……。


「うん、説明ありがとう!」


 リーズは笑顔を作ってはいるが、目は笑っていない。

 

 やり過ぎたか……? 

 でも少しドヤ顔をしたくらいでリーズが怒るわけないし……俺の考え過ぎかな?

 

 そう不安が募るなか、俺が気づいた頃には手遅れになりつつあった。

 リーズは強く拳を握りしめ、一歩、また一歩とゆっくり俺に近づいてくる。

 

 このパターンは……やばい、やばいぞ! 

 あいつマジだ。負けず嫌いなとこはあると思ったが、まさかここまでとは……。

 

 ベルに目で必死に合図を送り助けを求める。

 しかし見て見ぬふりをしている。


「ベル! たすけ……」


 助けを求めようと声を出そうとした。

 しかしあまりの恐怖に俺は声を最後まで出せずにいた。リーズが目を細め俺をジッと睨みつけるからだ。

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