第27話 魔国の跡地
こんな怖い状況下で助けを求めでもしたら――俺はどうなる?
そんなの知るはずがない。いや考えたくもない。
「……な、何でもないよ……ははは」
リーズは不敵な笑みを浮かべる。
指をポキポキと鳴らしながら口を開いた。
「ねえ、ベル。気にしなくていいわよ。詠唱を続けて」
「……う、うむ……承知したのじゃ」
ベルもリーズと一向に目を合わせようとしない。おそらくベルは、今この場で起きている状況を理解をしている、はずだ。どうせ巻き込まれたくないと思って気づかないふりでもしているのだろう。
絶対、そうに違いない。
あいつ、こういう時にこそ助けるのが仲間だろうに……『これからよろしくなのじゃ』って言葉はどこにいった?
そりゃ、俺が悪いよ、悪いけど……たまにはリーズをからかいたくもなるじゃないか。怖いな、恐ろしすぎる、どんな恐怖が待っているのやら?
「リヒトどうしたの? そんなびくびくして!」
「ごめんなさい、許して下さい。調子に乗り過ぎました」
「どうして謝るの? 無知な私に、博識なあなたが知識を与えてくださったのでしょう」
「……怒ってませんか? リーズさん」
「うん、怒ってないわよ」
「はははっ! そうかそうか。まあ、こんなことで怒ってたらまだガキって証拠だしな!」
俺のバカ。
また、やらかした。
すぐに調子に乗る癖は直さないようにしないと。
「ふーん、そんなこと思ってたんだ。謝る気はないと……」
「短い人生だったな……」
「ねえリヒト死ぬ覚悟はできた?」
そして、リーズは腕を大きく振り上げた。
俺は目を閉じて落ち着こうとするも、恐怖からかガタガタと身体の震えが止まらない。
それだけリーズが怖いということだ。でも、可愛い所もある。毎度毎度、俺を殴ったあとは手当てもしてくれるし、それよりふくれっ面が最高に可愛いのだ。だからこそ何度もからかってしまうのだ。
ん? おかしい、何も起きない。
殴られた感覚も痛みも何もない。
恐る恐る目を開けるとそこにはリーズの姿がなかった。
それ以前に辺りは見知らぬ光景が広がっていた。
「……ここは、どこだ?」
もともとは家などが建てられていたであろう痕跡が至る所にあり、すべて焼け尽くされた跡のようだった。
「おーい! 誰かいるか!」
俺は大きな声を発しながら、辺りを散策する。
だが、返事もなければ人っ子一人姿がない。
すると後ろから誰かに喉元にナイフを当てられた。
「振り向くな、動くと喉を掻っ切るぞ」
この声、それにこの花の香り、
「リーズだろ。びっくりするからやめてくれ」
「何でわかったの?」
「そりゃ声や匂いで」
「うそ、私そんなに臭いの?」
「違うよ! 花のいい香りがしたから」
リーズはナイフを下ろし、近くに隠れているベルを呼んだ。
「ベル! そこに隠れてるのはわかってるわよ」
建物の残骸から出てきたベル。
「なんじゃ。気づいておったのか」
「気づくわよ、その頭の角が隠れてなかったし」
「そうじゃったか、ははは!」
「あ、そうだ。ベルここはどこだ? まさかとは思うけど……」
「そうじゃここが魔国ベリアルの跡地じゃ……」
ベルはうつむき悲しそうにそう答えた。
それも当然だろう。
王国に民も殺され、さらには今まで築き上げてきたものすべて壊されたのだから。
「……やっぱりか……」
「………………」
リーズもこの悲惨さを目にし思わず口ごもる。
まさか、この場所とは思いもしなかったのだろう。百年前とはいえここに国がひとつあったとは考えられないほど何もない。城が建っていた痕跡もなく何ひとつ建物も存在しない。
焼け跡が残っているだけだからな。
「……ごめん、ベル。……こんなところではしゃいで」
「別にいいのじゃ。皆、喜んでくれているはずじゃ。余が戻り、人と手を組み、この地に訪れたことに」
「……うん」
「あ、そうじゃ。リヒトお前との約束を果たす時がきた。こっちにきて余の手を握れ」
「お、おう」
俺はベルのすぐ側まで行き、言われた通りに手を優しく握った。
「リーズは少し待っておれ」
「うん、わかったわ」
ベルはまた詠唱を始め、転移した場所は――。
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