閑話 魔王ベルゼビュート【後編】

 家族が魔国ベリアルから旅立ち二日後、無事王国近くまで辿り着いた。が、しかしそこに王国騎士団の馬車が向かってくる。そして家族の側で馬車を停めると、銀の鎧を身に│まとった騎士達が次々と降りてくるなり、一斉に武器を構えた。

 怯える家族にはお構いなし。罵声を浴びせながら目的を聞いてきたのだ。


「おい! そこの薄汚い魔族。王国に何用だ?」


「き、騎士様。私の夫が王国に住んで商売をしていると聞き、心配で様子を見に参った次第です」


「魔族が王国で商売だと……笑わせるな! そんなことある訳ないだろう!」


「この薄汚い魔族め。嘘を吐きよって! 騎士達よ! この者達を殺せ!」


 騎士達は容赦なく女、子供を剣で刺し殺した。

 そこで映像が途切れるのだった。


(何たることだ……まさか王国がここまで腐っていようとは……)

 

 ベルゼビュートは映像の確認を終え、すぐさま王国に連絡しては激怒したのだ。


「お前たち人間のせいで……同胞たちが何人死んだと!」


「これはこれは魔王様じゃないですか。何のことかさっぱりですな」


 連絡した相手は、当時のロベルト王国の国王であるボルメスだ。少し小太りな男で私利私欲で国家を動かす男。王としては失格の恥さらしに値する。


「二度も余に言わせる気か? 人間!」


「こっちは何のことやら存じかねますが」


「まだ、しらを切るか! なら余が王国を滅ぼしてくれる!」


「おお、それは恐ろしい。では我々も手を打たせていただきましょう!」


 その時、城下町の方角からの大きな爆発音と共に城が大きく揺れた。

 まるで地割れが起きたかのような揺れだ。

 立つことさえままならない大きな揺れにベルゼビュートは急いで机の下に身を隠す。

 

 しばらくして揺れは収まり、ベルゼビュートは確認のため急いでテラスに向かう。

 その光景は一度たりとも忘れられない光景。

 今まで平和だった街から黒煙が上がり、逃げ惑う魔族の人々。王国騎士団が街に侵入し、魔族達を殺戮しているのだ。

 

 それも笑いながら……。

 

(う、嘘では……こんな、余の国と民が……父上が託してくれたというのに……)

 

 ベルゼビュートは動揺を隠しきれなかった。

 

「まさか、こんな事態になろうとは……余の決断がこの惨事を招いたのか……」


「魔王ベルゼビュート! お前は人間に敗北したのだ。命はいただく。覚悟しておけ!」


 ボルメスは、そう言い連絡を切るのだった。

 

 ベルゼビュートは悔しかった。

 

 今まで代々築き上げてきた同胞との絆、さらには魔国、何もかも王国によって壊されていく。

 

 どうしてもそれだけは許せなかった。

 

 急遽、四天王を呼び出し王国に進軍するも……結末は残酷で魔王軍は完敗した。

 そしてベルゼビュートは敗北を察してか死者の森で勇者によって殺される直前、父上から貰った腕輪の中に自らの魂と意識を封じ込めたのだ。

 

 これが、隠された百年前の真実。


 だが、ベルゼビュートは一人の少年との出会いを果たした。それによってかつてないほどの希望が見えたのだ。

 いや、歯車が大きく動き出したと言ってもいい。

 

 少年自身も王国を憎み報復を望み、おまけにただの人間ではなく、魔族が信仰する死ノ神ときた。

 少年は自身が神であったことをはっきりと覚えていないようだった。だからこそこの情報を餌に少年の興味を引くことに決めたのだ。

 

 これはまさしく運命の出会い、誰が少年と引き合わせたかは定かではない。しかしあの王国に報復を望む気持ちは、違えない関係性となる。

 

 しかし少年にこの情報だけではメリットが少なすぎるのだ。だからこそベルゼビュートは少年に与えた。

 この魔王たる力の一部を……。


―――――――――

〈作者からのお知らせ〉

ここまでお読みくださりありがとうございます。

よろしければ、励みになりますので

【作品のフォロー】【☆での評価、レビュー】

応援コメント、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る