第24話 次なる標的は……

 その頃、ゴードン達〝かみ刺客しきゃく〟は貧民街に訪れていた。

 とある集合住宅を目指していたのだが、ゴードンはどうも不満を隠しきれない。


(なぜオレがこんな薄汚れた貧民街に)


 貧民街にきたのもある男と接触するためだった。 

 その男とはリヒトの暗殺に失敗した疑いのある男。


 住宅は五階建ての木造建築。

 強風や豪雨などの自然災害が起こると、秒で倒壊してもおかしくないほどのボロい建物だ。


 ゴードンはその集合住宅の一室の扉を叩いた。


「おい! いるか! ゴードンだ、開けてくれ!」


 しかし扉が開く気配はない。

 家の中からも物音一つしない――何か嫌な予感がする。


 扉を勢いよく蹴り飛ばし、ゴードン達は中に足を踏み入れた。物静かで不気味なほど何も聞こえてこない部屋の数々。そんな幾つもの部屋のどこに男がいるのかもわからないため、ゴードンを含めた四人は手分けして一部屋、また一部屋慎重に確認していく。


 だが、どの部屋にも男の姿が見当たらない。


(なぜだ? どこにもいないだと?)


 ゴードンの頭によぎったのは――死んでいる、という状況だ。そんな最悪の事態だけは、起きていないことを祈りつつ、最後の部屋の扉をゆっくりと開けた。するとそこには変わり果てた男の姿があったのだ。


「どうした? 何があった?」


 ゴードンはそっと男に近づき問い掛けた。


「殺される殺される殺される殺される殺される」


「そんなに怯えて一体どうなってんだ?」


「殺される、殺される殺される殺される、殺される」


 男は何かに怯えているようだった。

 部屋の隅で身体を震わせ、縮こまりその場から動こうとしない。おまけにその男の手足の指は曲がるはずのない方向に折れ曲がっているのだ。


 ゴードンはひたすら問い掛けるが『殺される』の一点張り。

 この状況をどうしたらいいかすらもわからない。


 対処方法を考慮している時、アンが口を開いた。


「あの~、催眠術を掛けましょうか?」


「そうだな、頼む」


 アンは詠唱を始め、スキル〈催眠さいみん〉を唱えた。男は言葉を話さなくなり、身体の震えも止まった。

 吸い込まれるように壁の一点をジッと見続けて……。


「無事に催眠が掛かりました。質問してみてください」


 ゴードンは頷き、男に問い掛けた。


「今から俺が言う質問に嘘偽りなく答えろ。お前の身に何が起きた?」


 すると男は部屋に戻るまでの出来事を淡々と話し始めたのだ。


「あの時、あいつの暗殺に失敗した――俺は急いで部屋を出て逃げた。固有スキルも奪われ戦う術をすべて失った。その逃走の途中……女は現れた」


「……女、とは?」


 そして、男の口から出た名前はロベルト王国内では知らぬ者がいないほどの有名人だ。その者は、鮮やかな剣技で相手を圧倒し、体術も優れ、王国騎士団でも名を馳せた人物。

 それは〝こおり剣姫けんき〟と呼ばれる者――リーズ・フリントだったのだ。


 ゴードンを含めた三人は予想だにしなかった人物に開いた口が塞がらない。

 しかしルゲルはリーズの名にピンときていない様子だった。


「おい、ルゲル。お前だけなぜ驚かない?」


「その……リーズって誰? そいつは俺より強いのか?」


「ああ、もちろんだ。前までは副騎士団長を務めていたんだが……突然辞職したと聞いている」


 そしてゴードンは一つの仮説を立てた。


「おい! お前ら! 副騎士団長が辞めたのはいつだ?」


 ゴードンはフランに確認を取った。


「……そうね……確か、その男が暗殺に失敗した次の日じゃない」


「はぁ……あの二人は最初から……繋がってやがったんだ」


「ねえ、何が繋がってるのよ!」


「それは後だ! よし、そのまま続きを話せ」


 男は再び語り出した。


「もの凄い形相で女は追いかけてきた。それも人間だと思えない速さで……そして捕えられ路地で……拷問を受けた」


「どんな拷問を受けた? それに何を聞いてきた?」


「『リヒトを刺したのはお前か?』と。けど俺は答えなかった。そしたら手足の指を一本一本へし折られた。次に聞かれた……『雇ったのは誰だ?』と」


「……なんだと! それで、お前は答えたのか⁉」


「………………」


 男は沈黙した。

 そして突然頭を抱え部屋中を走り回り、奇声を上げたのだ。


「ぎゃあ! ぎゃあああああ!!」


 そして男は部屋の窓から飛び降り、命を絶った。


「何が起きたんだ……?」


「理解しがたいわね。だけど……雇ったのはわたし達だって知られたんでしょ。勝ち目は……でも相手は一人だし行けるでしょ!」


 フランはこの場にいる全員にそう告げた。


「そう、だな。……あの女が襲撃してくるかもしれん。皆、気をつけろよ」


(怒らせてはいけない奴を怒らせてしまったか……)


 だが、悩んでいても仕方がないのだ。

 ここは、襲撃してきた時のことを考慮し万全の準備を整え迎え撃たなければならない。


 そうでもしないとゴードン達全員が死ぬことになるのだ。


(なぜ、こうなった!!)


 ここでゴードンは大きく後悔したのだ。

 もっとリヒトを丁重に扱っておけば、このような事態に陥らなかったのだと。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る