第22話 儀式の素材集め

 俺とリーズは魔族の気配を察知し、すぐさま近くの茂みに隠れた。


 洞窟の入り口には、いかにも強そうな魔族三体が見張っていた。そのうち一体は頭から一本の角が生えており、自身と背丈と変わらない程の大きな棍棒を持っている。もう二体は杖を持ちローブに身を包む。いかにも魔術師という格好をしているのだ。


 どうやら、この洞窟を守護してるみたいだ。


 中に入ってみないとわからないが、この洞窟の先に魔王と関係するものがあるのかもしれない。

 

 失敗は許されない。


 仕留め損ねた場合、ややこしい自体になりかねないからな。そんな考えもあって俺はリーズに頼んだ。


「リーズやれるか?」

 

 俺は小声でリーズにそう問い掛けた。


 リーズは小さく頷いた。そして隠れていた茂みから飛び出しては、目にも留まらぬ速さで魔物の身体を斬り刻みバラバラにする。


 本当にバラバラにするのが得意みたいだ――解体所なり、そういう仕事に就いた方がいいような……。


 でも改めて見るが血を浴びているにも関わらず、リーズの剣技も舞う姿も美しく思える。まるで白い翼が生えた戦乙女ワルキューレのように……自身でもなぜそう思ったのかはわからないが、でもたしかに心の中ではそう感じたのだ。


 これは戦いというより一方的な殺戮に近いが。

 

 そんなバラバラになった魔族の懐から一枚の紙切れがヒラヒラと地面に落ちた。周囲に他の魔族がいないことを確認し、その紙を拾って確認する。

 そこに書かれていたのは、魔王復活の儀式に必要な素材と流れが書かれてあったのだ。


 これは罠なのか……?

 俺たちには都合がよすぎるような……。


 しかし今は罠でもそれに乗るしか手段がない。

 

 必要な素材は五つ。


 一つ目は魔王の遺体。


 二つ目光命草こうめいそうと呼ばれるこの森の岩陰などに生息している植物。

 

 三つ目は魔族王家の腕輪。


 四つ目は水晶。


 そして最後の五つ目はブルードラゴンの心臓と書かれてある。


 この五つの素材すべて集めることで復活の儀式がようやく行えるようだ。


 魔族がこの紙を持っていたということは、遺体が必ずこの先の洞窟にあるはず。


 俺の予想は確信へと変わり、リーズと洞窟にそっと足を踏み入れた。歩き進んでいると奥から赤い光で満ちている。その光る場所を目指し、ひたすら洞窟内を歩き続けた。

 しかし魔族が他にも出現しないとは限らない。


 一応、警戒はしておくべきか……。


 目的地に辿り着くと、そこには大きな台の上に棺が置かれていた。

 棺の中身を確認すると腐敗臭漂う魔王の遺体と青い水晶が入っていたのだ。


「見つけたぞ……」

 

 これで五つの素材のうち、二つを手にしたことになる。恐らくだが腕輪については、リーズから貰ったこの腕輪で間違いはないだろう。そう思う。

 魔王と名乗る女が話し掛けてきたりもしていたからな。


 これで三つが揃った、のか? 

 まあ、今はこれでよしとしよう。


 残りは光命草こうめいそうとブルードラゴンの心臓のみ。


 ┃光命草こうめいそうは俺が幼い頃、教会で読んだ植物書に書かれているのを目にしたことがあった。主に陽の光が当たらない場所に生息し、周囲にある植物を養分にして花を咲かせるのだ。なので周囲の植物は栄養分を奪われ、枯れ果てているらしい。


「リーズ、先に光命草かブルードラゴンの心臓どっちを取りに行く?」


「うーん……先に大変そうな方を終わらせておきたいし、心臓を取りに行こう」


「まあ、先に面倒事を片づけといた方が後が楽だしな」


 お互い大変なことは先に終わらせたい性格だ。


 俺とリーズは洞窟を一度離れた。

 そしてブルードラゴンの住処があるとされる森の東に向かって歩き始めたのだ。


 しばらく歩き続け、驚きの光景が目に入った。 


 目の前にブルードラゴンがどれ程の大きさか一目でわかる巨大な穴があった。

 俺の身長の十倍、いやそれ以上だ。足音を立てず、そっと穴の中を慎重に物音を立てず進んでいく。奥に進むにつれ、大きな鼻息のような音がこの空間に響き渡る。その音はやがてだんだん大きくなる。標的であるブルードラゴンに近づいている証拠とも言えるだろう。


 さらに奥に進むと、開けた場所に出た。

 そこには横たわり眠りに就いたブルードラゴンの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る