第21話 死者の森で
そして翌朝、陽が昇りると目を覚ました。
心地良い風が吹き、虫の泣く声、俺はこのすべてに心を踊らせた。初めての旅――こんなにも素晴らしいものだったのか、と。
「う~ん本当に気持ちのいい朝だ」
俺は真っ赤な太陽を見ながらそう呟いた。
「さてリーズが起きる前に朝食の準備をしないと」
「おはよー、リヒトご飯まだ?」
慌てて振り向くと同時に身構えた。
一度背後から刺されたのもあって、身体が反応してしまったのだ。
「何そのポーズ? あ、そうか私と体術勝負したいのね!」
「ち、ちち、違うから! 急に背後に現れたからびっくりしたんだよ!」
「ふーん」
「何だよ! その反応!」
リーズは憐みの目で俺を見る。
森に入る準備を黙々としながら、どうせコイツ男の癖に度胸がないな、なんて思ってるんだろう。
「な、何でそんな目で俺を見るんだ!」
「いや、別に」
心のうちをすべて見透かされているのか、と不安に思うことが多々ある。
俺がリーズのことを心中で愚痴ってたりした時は尚更だ。睨む時のタイミングがよすぎるんだよな。絶対バレてるだろ。たまに心の中で愚痴ってるって。
「朝食を済ましたらすぐに死者の森に入るぞ。魔王も早く見つけないといけないからな」
「ゴードンたちにリヒトが生きてるってことを知られる前に準備は整えて置かないとね。邪魔されても嫌だし」
「そうだ。今邪魔されると俺たちの計画がすべて水の泡になるからな」
そもそも計画なんて言ってるが、たいしたものではない。ほんと誰でも思いつくようなことだ。
朝食を食べ終えた俺たちは死者の森に足を踏み入れる。しかし足を踏み入れた瞬間、身体中に悪寒を覚える。さらには木々の間から誰かに監視されているような感覚にまで陥る始末。
朝とはいえ森の中は木が生い茂っており、光が差し込むことはない。
暗闇で奥が視認できない状態なのだ。
「リーズ明るくしてくれ」
リーズは暗闇を照らす魔法〈
この森の最奥までどのくらい歩いたらいいのかも分からない。そんな恐怖と不安があるなか、俺とリーズはゆっくりと森の中を歩き進める。
その時だった、茂みから音がしたのは。
だが《
「……何だ?」
目を細めて確認すると、そこには歩く何体もの死体――アンデッドが徘徊していたのだ。皮膚は変色し、眼球が溶けているようにも見える。
口からは白い液を吐きながら俺たちに気づいたのかゆっくりと迫ってくる。
こんな森でまともに戦うことなどできない。
特に武器を用いての戦いは。
体術なら何とかなるかもしれないが……。
アンデットは固有スキル《
それに周囲も暗いため、リーズから離れるわけにもいかない。
「そうだ! あの男から奪った固有スキルが!」
「何の話をしてるの?」
「あまり時間はない、けどこれだけは信じてくれ。俺は少しでもリーズの役に立ちたいんだ!」
「けど……危険だよ。怪我したらどうするの?」
「信じてくれリーズ」
俺はリーズの頭を優しく撫でた。
これで少しでも俺の気持ちが伝わってくれたら嬉しいのだが……。
「わかったわ、なら試してみたら。何かあれば私がすぐに助けに行くからね」
「その時はお願いするよ」
リーズには許可を貰った。
さて俺があの男から奪ったのは《
これが《
俺は早速アンデットの背後に回り込み、短剣で頭部を突き刺した。
一体、また一体と確実に仕留めていく。
アンデッドはおそらく目が見えていないだろう。嗅覚で生物の居場所を把握しているようにも思える。もし俺の動きが見えているなら何かしらの反応を示しているはずだ。
「何か呆気なかったな」
今まで戦闘経験が皆無だった俺でも、戦い方を憶えているかのように身体を動かすことができた。
リーズには本当に感謝しかない。
あの腕輪を俺に託してくれたからこそ、魔王と名乗る女から《
今までの弱い自分とはさよならだ。
俺はリーズが待機している場所まで戻った。
そして二人で最奥を目指して再び歩き始めた。
「リーズ上手くいったよ」
「それならよかったわ。今度から戦闘はリヒトに任せようかな!」
「何でだよ! だけど俺はこれからもリーズより強くなれるよう努力はするから」
「じゃあ……強くなったら私を守ってね」
「そんなの当たり前だろ! 今でもリーズが危機に瀕したら命がけで守るから」
「ありがとう、私嬉しいわ!」
リーズはそう言ったものの、悲しそうに笑い俺を見つめてくるのだった。
そして歩き続けると、目の前には謎の洞窟が確認できた。伝記には消えた、と書かれていたが、こうも容易く見つかるとは思わなかった。
ここが本当にあの洞窟なのかはまだわからないが。
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