第20話 魔物すらも圧倒!?

 俺たちはゴードンとすれ違った直後に小声で会話をしていた。

 

「ゴードンは気づいていないようだな。気づかれるにはまだまだ早い。リーズ死者の森へ急ぐぞ」


「わかったわ! 初めての旅楽しみね!」


 これは俺とリーズにとって初めての旅になる。

 少し不安もあるがリーズと一緒にいると、安心して旅ができるのも事実だ。


 ロベルト王国とゴードンたちに報復できると思うとものすごく胸が高鳴ってくるのだ。この報復を邪魔する者は、どんな手を使ってでも……。

 

 そして王国に背を向け死者の森へと旅立つのだった。


           *

 

 俺とリーズが王国から旅立ち半日歩いた頃、地面から大きな揺れを感じた。


「何なの……この揺れ?」


「リーズ気をつけろ! 地面から何かくるぞ!」


 足元の地面が裂け、大きなミミズのような魔物が勢いよく飛び出してきたのだ。


「何でこんな場所にA級の魔物が!」


「ストーンワーム。少し手強いわね」


 世界の魔物にはそれぞれ危険度というランクが設けられている。そのランクは EランクからSランクまで存在し、冒険者各々の能力によって討伐可能か否かを判断する基準でもあるのだ。


 E及びDランクの依頼は、新人冒険者でも討伐できるような魔物が基準となっている。


 CからAランクは、冒険者という職にも慣れ、魔物の知識が豊富な者でないと討伐できない魔物ばかりだ。


 最後にSランクは、生まれながらにして戦闘の素質があり、経験や知識が豊富な者でも苦戦するレベルだ――最悪、命を落とす危険性もあるといったところか。

 

 俺の《危機察知ききさっち》が反応したおかげで何とか気づくことができたが……このままでは……。

 

 リーズは刀を下段に構えた。

 そして目を瞑り、一瞬で姿を消したのだ。


「弱者よ、その命、無駄にしたわね。一ノ型〈瞬連斬しゅんれんざん〉!」


 〈瞬連斬しゅんれんざん〉とは、体内で力を溜め、その力を一気に解放。超人並みの速度で相手に迫っては、反撃の隙を与えず死ぬまで永遠に斬り続けることができるといったスキルだ。

 もはや無双スキルである。


 だったらこのスキルを使えばほぼ無敵じゃんと思われるかもしれないが、攻撃に重視しているため防御はまったくの皆無な状態。その間に相手の攻撃を一撃でも貰うと致命傷となるのは必然なのだ。


 しかし瞬きをしている間にすべてが終わる。

 ストーンワームの身体はバラバラに切り刻まれ、おまけに叫び声を上げることすら叶わず倒れるた。

 

 リーズってやっぱり恐ろしい。

 

 実際、リーズは味方にいると心強いが、怒らせると手をつけられなくなる。怒り状態で戦闘となると人が変わったかのような発言や狂人のようなめちゃくちゃな戦い方をするのだ。

 それはどっからどう見ても普通の女性とは思えない姿。


 容姿に関しては王国でも王妃や王女を差し置いて〝こおり剣姫けんき〟と呼ばれるほどの絶世の美女。そんな美女に男たちが群がってはくるのは必然と言えるだろう。

 しかし自身の剣の実力を越える者でないと目も合わせてくれないらしい。


 王国内でもリーズの気を引くため、勝負を挑んだ男が山のようにいるが全員惨敗。

 勝負を挑んだ男達は毎回怪我して、泣きながら立ち去っていくと噂になるほどだ。

 

 俺だったらこんなおっかない奴と戦うのはごめんだ。だって痛いし、怪我するもん。

 

 戦闘を終えたリーズは何事もなかったかのように荷物を手に取り再び歩き始めた。


「やっぱりリーズの強さは異常だよな! 俺もリーズみたいに強かったら……」


「気にしなくていいわ。リヒトはリヒトなんだから!」


 なぜ、そこまで強くなりたいのか?


 もちろん報復するためといった理由もあるが、俺にとっては家族同然のリーズを守りたいという気持ちのほうが日に日に強くなっているからだ。


 そうこう考えていると死者の森に辿り着いた。

 夕日も沈みかけている。これ以上の先に進むのは危険だと判断し、俺は荷物を地面に置いた。


「今日はこの辺で休もう」


 二人で一度周囲を確認したあと、焚き火を起こし食事の支度を始めた。食事の支度は基本俺の仕事だ。その間、リーズは再び周囲の警戒を怠らない。 

 ついでに刀の手入れもしている。


 今晩の食事は鶏の香草焼き、サラダ、日持ちする硬パンだ。

 本当にこの硬パンは便利な食べ物だ。

 他の冒険者達も長い旅や、依頼をこなす時などに非常食として持ち歩く代物だ。

 

 まあ、味は決して美味しいとは言えないが……。

 

 でも、鶏の香草焼きと一緒に食べると、パンの硬さはあまり気にならない。油を吸ってか味が染みて高級料理を味わっている気分にもなれる。


 そして食事を終えると、近くにある川で調理器具や皿を洗った。リーズの魔法で乾燥させ鞄にしまうと、二人で近くにあった巨大な岩にもたれるのだ。


 これで今日一日も終わりを迎えた。

 俺はリーズの隣で毛布をかぶり眠りに就くのだった。

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