第7話 教会に訪ねると
リーズを抱えたまま、しばらく走り続けた。
そんな僕の目の前に現れたのは大きな建造物。
「はぁはぁ、もう限界だ……ここで一休みしよう」
僕とリーズはその大きな建造物の中で身を隠すことにした。内部は横長の椅子が縦一列に整頓され、正面には女神像が置かれていることから、おそらくここは教会だろう。
そんなことより今は何か起きた時のため、しっかりと身体を休めなければいけない。
肝心な時に動けないようでは困るからだ。
そしてリーズを椅子の上にゆっくりと寝かせ、
「おやすみ、リーズ」
リーズを寝かし着けた途端に僕も緊張が解けたのか睡魔に襲われた。目蓋がだんだんと重くなり、気づいた時には僕自身も眠りに就いていた。
*
「はあああ〜!」
僕は大きなあくびをしながら両手を大きく上げ背筋をピンと伸ばす。
目を覚ますとまず一番最初に飛び込んで来た光景は、色とりどりに彩られたガラスの天井だった。それはどこか幻想的で息を呑むほど感動してしまう。
昨夜は暗くて細かい部分まで見えなかったが、この礼拝空間には祭壇が設置され、古くも貫禄がある女神像がこちらを見つめているのだ。
まあ、実際には僕を見つめてるんじゃなくて、正面をずっと見つめてるだけなんだけど。
でも以前、父さんに聞いた話では、必ず教会には神父様か聖女様のどちらかがいて、何らかの神を信仰し、奉仕しているのだと聞いたことがある。
その奉仕の内容まではよくわからないが……少し興味が湧いている。人がどのように神に祈りを捧げているのかを。
しかし不思議なことにどうしても昨夜の出来事がうろ覚えだ。思い出そうとすると、誰かに頭を殴られた時みたいな頭痛が襲う。
なぜ、頭痛が……頭が割れるように……それにこんな場所、僕は行ったこともない。
僕の頭の中で流れる不思議な映像。
黒い銃? 血を流して倒れる女性? それを見て泣き叫ぶ男性? 意味がわからない、けど絶対に忘れてはいけない気がする、そんな気がするんだ。
一定時間経過すると頭痛は徐々に収まってくる。
まるで最初から頭痛なんてなかったかのように。
「…………そうか、もう……村は……家族は……だから、僕は……」
昨夜、騎士団に襲撃され村人たちは殺され、父さんや母さんも殺された。直接見たわけではないけど、多分そうだ。
今の僕にとって大切なもの……すべて奪われたことになる。家族と忙しくも楽しく過ごした日々はもう戻ってはこない。
「そういえばリーズはどこに?」
僕は椅子から立ち上がり、昨夜リーズを寝かせた場所まで向かう。
しかしそこにリーズの姿はなかった。
まさか!
この喪失感は……ダメだ、リーズを守らなければ!
不安になった僕はこの広い礼拝空間を駆け回る。
必死にリーズの名前も呼び続けた。
「リーズ! リーズ! どこにいるんだ‼」
すると祭壇近くの扉がゆっくりと開き、そこからリーズと司祭服を身に
二人が僕の方に駆け寄ってくる。その女性は人間としては珍しい新緑の長い髪に、白銀のペンダントを首から下げている。
この教会の聖女様なのか……?
「はぁ、よかった。姿がないから焦ったよ」
「……ごめんなさい」
「ていうか、リーズその人は?」
「うん! ミレーユだよ。聖女様なんだって! すごいでしょ!」
リーズが自慢することではないと思うが……まあ、機嫌がいいのならそのままにしておこう。
少しでも気が晴れてると安心するんだが……。
僕がリーズの方を見つめ心配していると、
「初めましてリヒト君。この教会を管理しているミレーユです。リーズちゃんから昨夜の出来事もすべて聞いてるわ。……本当に大変だったわね」
「…………いえ……」
僕の口からはその言葉しか出なかった。
大変? 大変だっただと……僕とリーズがどんな思いで父さんや母さん、それにセーラさんをあの村に置いて逃げ出してきたか知らないくせに。
勝手なことばかり言って……ホント大人って勝手だ。自分達の都合で村人たちを殺し、このミレーユは状況を何も理解してないくせにまるですべてを悟ったかのように気に掛ける。
だから身内以外の大人って信用できないんだ。
しかしリーズも昨夜の出来事をはっきりと覚えているみたいだ。元気そうだったからてっきり昨夜のことは、何も覚えていないと思ってたのに……。
まあ、あれだけのことがあったんだ。忘れられるわけないか。
僕は急いでリーズの手を取り教会の出口まで歩き始めた。なるべく人とは関わらない方がいい。
騎士団に密告されでもしたらこの先どうなるかもわからないからだ。
「リーズ今すぐここから出るんだ。もしかしたら騎士団が追ってくるかもしれない」
王国にとってはあの村での騒動が民に知られると厄介だと感じるはず。懐が大きく心優しく、自分の名誉よりも民を思うーーそんな王家のイメージが崩れるからだ。
さらには農作物の納品が間に合わない、そんな理由で王国を守護するといった名目で結成されたはずの騎士団が村人たちを惨殺したとあらば、国中大騒ぎになるのはもはや語る必要もないだろう。
守るべき者が、抵抗もしない村人たちを惨殺する。そんなこと許されるはずもない。
皆、この世に誕生し、自分なりに必死になって生きている。
その命すら軽々しく奪うなどもっての外だ。
そう自分の意見を正当化してるが、僕自身に父さんや母さん、そしてセーラさんに村の人たちまで守る力がなかっただけのこと。
だからこそ僕は誓ったんだ。
必ず力を手にし、あの腐敗した王国に必ず報復するのだと。
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