第5話 不安が募るこの日

 そして翌朝、いつも通り早朝に目が覚めた僕。

 朝食を摂っていると外が何やら騒がしい。

 気になった僕は窓から顔を出し確認すると、王国騎士団がこの村に入ってくるのが見えた。


 記憶が正しければ、王国騎士団は今まで一度たりともこの村に訪れたことがない。

 僕が転生し、誕生してからの話にはなるが。


 王国へ納める農作物に関しても村の人が直接王国に納品する決まりのはずだ。


 それなのになぜ、この村に来たのか?


 王国騎士団が来たことに気づいた父さんは慌てた様子で、僕に話し始めた。


「いいか、よく聞け……リヒト。家の中で大人しく待ってるんだぞ。父さんちょっと行ってくるからな」


「……うん、大人しくしてるよ」


「それでいい」


 父さんは扉を開け外へ飛び出した。


 忠告はされたが、どうしても気になる僕は二階の自室に向かった。

 窓からひっそりと外の様子を眺める。そこで目にしたのは騎士団と村の人達が揉めている光景だった。騎士団の一人が剣を抜き、村人に向け脅しているようにも見えた。

 

 最低な奴らだ。武器を持たない者に剣を向けるとは……。


 しかし騎士団の男は剣を収めた。口が動いている、ということは何か話しているとは思うが、口の動きが早すぎて何と言ってるか読み取れない。


 そして騎士団全員は馬に跨り、東の王国方面へと消えていった。


 騎士団の姿が見えなくなるのを確認した村人達は溜息をつきながら、それぞれ自分の家へと戻って行く。


 父さんも帰ってきたが、何やら表情が曇っているように見えた。


「……あなた何があったの? 騎士団がくるなんて……」


 母さんは何かあったと察したのか、すぐさま父さんの元へと駆け寄る。

 

「………………」


 しかし父さんは母さんの質問に対して口ごもった。それだけ言いにくいことなのだろう。

 でも母さんに心配させたくないと思ったのか、父さんは閉じていた口を開いたのだ。


「実は農作物を納める量を増やすって言われたんだ。今でもかなり大変だっていうのに……どうしろっていうんだ!」


 父さんの今まで見たことのない表情。

 それは怒りに満ちていた。


「次は一週間後に農作物を二倍の量で納めに来いと言われた。どうしてなん!! 生活していくのも大変だっていうのに!!」


 過去に父さんから聞いた話からして……恐らくだが王国内の人口が増加し、さらには貴族達が野菜や穀物などを買い占めているのが原因でこんな状況になっているのだろうか?


 人のことはあまり詳しくないし、おまけにまだ僕は子供、知らないことがたくさんあることは事実だ。父さんを何とか慰めてあげたい気持ちもある。でも事情を知らない僕じゃどうすることもできない。


 そして母さんは、父さんを抱き寄せ耳元で囁いた。


「あなた、大丈夫よ。村の人と協力すれば何とかなるわ」


 でも現実はそんなに甘くはなかった。村の倉庫には在庫の農作物は存在せず、収穫できるのも僅かしかない。村長が王国に直訴しに行ったが、話も聞いてもらえず追い返される始末。


 どうすることもできない。


 村人達の中で徐々に不安が募り始める。

 もし、期日までに納めることができなかった場合どうなるのか? 

 でも結局のところ期日までに何とかするしかない。


 近くの村にも声をかけ助けて欲しいとお願いもしたみたが、その村人達も自分達のことで手一杯だということで断られた。


           *


 そして期日の日、農作物をできる限り収穫したが、決められた量には程遠い。


 昼頃、村人がまとめて農作物を納めに行くはずだったが、なぜか騎士団がこの村に回収しに訪れたのだ。村長が直訴しに行ったことで、納めにこないのではと思っての行動なのかもしれない。


「あ、あの……騎士様すみません。村の者全員で精一杯収穫したのですが……これだけしか…………お、お許しください」


 僕の父さんも含め村人全員が騎士に対して頭を深く下げた。それは誠心繊維の謝罪だった。


「ふむ、そうですか。これだけしか収穫できなかったと……分かりました。では引き揚げましょう」


 そう言い残し騎士団は王国に帰って行ったのだ。


「よかったー! 罰則もないじゃないか!」


「そうだな! 不安になってたのも馬鹿らしかったな!」


 村の人達は罰がないことに歓喜した。

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