1章 転生してからというもの……

第3話 人としての苦労

 あの神界での出来事から何年ほど経過しただろうか?


 人界へ転生したことがきっかけとなり、記憶と力の大半が消失した。


 僕は何の神で何のために神々に手を掛けたのかすら憶えていない。でも本当に忘れてはいけないことがあるような気がする。そう感じるのだ。


 それに頭によぎる女性の姿……君は一体? 


「おい、聞こえてるか? リヒト!」


「ああ父さんか……」

 

 僕はリヒト・レンベルとして人界に転生し、今年で七歳となった。自分で言うのもおかしな話だが、漆黒の髪が似合うそこそこの顔立ちに年齢の割には高身長。

 僕の両親の遺伝子の賜物と言えるだろう。


 父さんのグレンは歳の割に若い女性が振り返るイケオジって感じで、母さんのミラは若く美人な上に優しい性格をしている。


 確か父さんより十歳ほど下って言ってたっけ?


 そんな完璧とも言える両親の間で生まれたとあれば、そりゃと思ってしまう自分自身が恐ろしい。

 

 父さんは若い頃からモテ続けていたらしく、ナルシスト気質だ。

 そんな性格が僕にも混じっていると思うと恐ろしく感じるが……一つ間違えば、女性からは冷たい目で見られ、いづれ僕の居場所がなくなる。それだけは避けたい、そう避けなければならないのだ。

  

「『ああ父さんか』じゃないだろ。水溢れてるぞ」


「うああっ! ほんとだ」


「水もこの村にとっては貴重なんだから大切に扱えよ。飲み水も限られてるからな」


「ごめん父さん気をつけるよ」

 

 そんな注意を受けた僕が今住んでいる場所は、世界で最も発展した国と言われているロベルト王国の領土に地図にも乗らない小さな村。

 その村で農作業をしながら父さんと母さんと三人で暮らしている。


 さっきも言ったが農作業をしているっていうのもあり、起床は朝日が登る前。

 起きたらまず顔を洗い、母さんが作った朝食で朝の農作業に向けてエネルギーを補給する。そして父さんと野菜や果物を栽培している畑へと向かい耕しに行くのだ。


 これがまた大変な仕事で、身体つきは年相応のため少し重い桑を振るだけですぐに息が上がってしまう。


 まあ、人に転生して色々と苦労が絶えないということだ。けど人の生活はいつ何が起きるかわからない、というのがリスキーで面白くもある。

 神だった時代は同じことばかりしていた、気がする。


「そう謝るなよ、お前もホントは遊びたい年頃なのに……こんな農作業に時間を割いてくれてるんだからな」


「でもそれはこの村に若い人がいないからで」


「いやそうだけど、リヒトはもっと遊びたいだろ?」

 

 確かにそう言われると、そうなのかもしれない。

 この人界を見て回りたいって気持ちもある、それに本当の自分探しをしたいとも思っている。数少ない記憶を頼りに一体自分は何者で、何をした神なのか、それにあの女性を探すためにも。

 

 でも現実的に考えると僕はこの村から離れるわけにはいかない。この村には若年者が少ない、それもあってか畑仕事できる人も少なく、さらには村の近くに川などの水場がないことで年々収穫物が減っているのが現状。


 自分達だけが食べる物だけならまだしも、王国に納める野菜や穀物などの農作物も育てないといけない。

 

 なぜ、農作物を王国に納めないといけないないのか?


 それは、王国の領土に暮らしている、というのが主な理由となってくる。土地代と言えばいいのか、民税と言えばいいのかわからないが、そういう人が決めた法律、規則みたいなもので決まっている。だからこそ農作物を王国に納めることになっている、というわけだ。


 話を聞く限りじゃこれは僕が生まれる何十年も前から続いており、領土に住む者達の宿命みたいなものらしい。


 しかしだ、そんな僕にも楽しみがないという訳ではない。


 夕刻、家に帰ると母さんが作った手料理が机にたくさん並べられる。家族で机を囲んで、母さんが作った美味しい夕食を摂りながら、父さんの自慢話やロベルト王国の話、昔から偉そうにしている貴族の話、そして人界のおとぎ話である勇者と魔王の話を聞くことができる。


 父さんが話し上手なこともあってか、食卓にはいつも笑顔が満ち溢れていた。


 神であった時はどうだったか記憶にないが、今の僕にとっては唯一の心の支えは家族という存在だ。家族がいなければとっくに僕はこの村から抜け出して、自分探しの旅に出るなり、あの女性を探したりしていただろう。


 それほどまでに今の僕にとっては家族が一番大切なのだ。


――――――――

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