第4話ー勇気出してinステージ出演2

 キヨテルは、少しだけ、だしぬけにしようと思っていた。

 もう、これしかないと思っていた。

 もう、アヤカと付き合えないのかと思っていた。

 アヤカに、先日

「あんたなんか嫌い」

 と言われていた。

 そんなある日、2024年5月になっていた。

 新緑が香る頃だった。

 最近では、朝と日中の気温差が激しくなっていた時期になっている。

 キヨテルは、アヤカにLINEで話をした。

「アヤカ」

「何?」

「伝えておきたいことがあるんだけど」

「何?」

 もう、興味がない声だった。

 本当は、キヨテルは、アヤカと仲直りをしたいと思っていた。

 その矢先だった。

「今度さ」

「うん…」

 だが、アヤカは、いら立ちが隠せない声だった。

「オレさ」

「だから、何?」

「ステージ出演するんだ!」

「どこで?」

 角川町のコミュニティのイベントって、恥ずかしげもなく言えるのだろうか?それでも

「オレ、角川町のはるのつどいって、イベントで、歌を歌うんだ」

「キヨテルって、バンドをしていたの?」

「していないよ」

「じゃあ、どうやって?」

「アカペラで、ソロで歌うよ」

「いつ?」

「5月12日」

「今度の日曜日じゃない」

「そう」

「私、行くよ」

「来るの?」

「角川町のどこ?」

「上大岡駅角川公園」

「何時に、始まるの?」

「10時15分」

 と言った。

 本当は、アカペラで、ソロで歌うなんて馬鹿げた話だと、キヨテルは、思った。だが、それでも、キヨテルは、はるのつどい、にエントリーしたのだ。いや、以前、観ていた、新橋イチローの『Music is lovers』という動画配信のドラマに感動していた。

 自分もああなれないだろうか?

 2024年5月12日だった。

 京急上大岡駅から徒歩15分のところに、角川町の角川公園が、あった。

 …

 10時。

 イベントのオープニングセレモニーが、あった。

 ユニフォームの姿で、女の子たちが、ダンスを音楽に合わせて踊っていた。

 しかし、キヨテルは、大して、念入りな準備もせずに、舞台裏で待っている。小学生の女の子が、終わった後、キヨテルは、これから、キヨテルは、スタンバイしていた。

「それでは、今日は、「sing is lovers」の方になります」

 と言って、MCの女性は、トークを始めた。

 キヨテルは、舞台で、いきものがかり『ブルーバード』、をアカペラで歌うと、みんなが、怪訝な顔をして、「何?あの人」みたいに指をさして、帰って行った。しかし、舞台から、キヨテルは、アカペラで、大きな声で歌っていたら、アヤカが、ずっと、そのまま、キヨテルの歌っている姿を動画で撮っていた。

 キヨテルは、馬鹿だと思った。

 新橋イチロー『Music is lovers』や『miracle music in 2024.1.1』を「あんな甘いドラマは、嘘つきだ」と新橋イチローに怒っていた。

 ステージ出演をしたキヨテルは、一生懸命歌ったが。観客なんて、まばらだった。5名しかいなかったと思う。

 いきものがかり『ブルーバード』、渡辺真知子『かもめが翔んだ日』、小泉今日子『あなたに会えてよかった』を歌ったのだが、「ああ、俺って、歌手の才能なんてない」と最後は、涙目になっていた。

 それでも、少しだけ、拍手があった。

 終わってから、キヨテルは、舞台裏から出てきて、アヤカが、来た。

「キヨテル」

「何?」

「よく声が出ていたじゃん」

「そう?」

「私だって、今、ギター習っていたんだ」

「え?」

「言ったら、私だって、参加していたのに」

「ごめん」

「だけど、結構良かったよ」

 と言った。

 二人で、少しだけ、歩いた。

「そうだ」

 とキヨテルは、言った。

「今度、ステージ出演する時、俺たち、二人で出ない?」

「うん」

「オレ、リーダーで、アヤカ、部員だけど、良いか?」

「いいとも!」

 とタモリの真似をして、アヤカは、言った。

 それから、暫くして、キヨテルのアカペラは、アヤカのスマホの動画に残ったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る