第35話
『実里へ。
俺です。覚えていますか?
今さらだけど、このブログを読みました。
懐かしくて、当時のことを思い出してしまっています。
実里はもう覚えていないと思うけど、俺の高校生活も実里の横で鮮やかに色を帯びていったんだ』
『もしきみが、7年前のことを覚えているのなら。
12月24日の18時に校庭の松の木の下で待っています。
一緒にタイムカプセルを開けましょう』
「分からないはずがない。そもそもこのブログを知ってるのだってごく一部の限られた人間だけだったの。私、馬鹿だから、コメントを見て、もしかしたら仁くんも同じ気持ちなんじゃないかって、思った。だから今日、こうしてあなたに会いに来たんだよ」
実里は潤んだ瞳を宝石のように輝かせて、俺の目を見据えた。俺の頬に涙が伝う。ああ、どうして。どうして俺は気づかなかったんだろう。簡単に、彼女を手放してしまったんだろう。
「ねえ、私との日々は本当に色鮮やかだった? 幸せだった? 私は、私はね……どんなに面白い本を読んでも得られないぐらいの喜びでいっぱいだったよ」
教室の中で、一人静かに読書をしていた実里。俺が好きな作者の本を読んでいた。わくわくする展開で毎回引き込まれるシリーズの本だ。彼女も俺も、本が好きで、ちょっとどこかネジが外れていて。そんな二人だったからこそ、惹かれ合い、物語の主人公に負けないくらいの幸せを手に入れたのだ。
「……俺は、俺は……俺も、幸せだった。好きだった。いや、好きなんだ、今でも」
おかしいと思われるかもしれない。
自分から振っておいて、そんなに都合がいいことがあるかって、怒られるかもしれない。
でも俺は、実里を失ってまた出会い、ようやく気づいたのだ。
自分が出会った彼女は、宝石なんかじゃなくて、一緒にその辺の河原に転がっていた石だ、と。お互いに欠けている部分があって、でも一緒にいると心地良くて。一人なら地味でも、二人でいれば切磋琢磨して何者かになれる。幸せなひとかどの人間になれるんじゃないかって。
そんな大事な彼女を手放してしまった愚かさと情けなさと、もう一度出会えた喜びで、もう心はぐちゃぐちゃだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます