第29話


「タイムカプセル、開けるんでしょう? これ持ってきた」


 これまで音信不通になっていたことや、どうしてブログを見たのかということには何も触れずに、彼女は持っていたビニール袋からスコップを取り出した。


「……ありがとう」


 俺は彼女からスコップを受け取り、7年前にタイムカプセルを埋めた記憶のある場所を掘り始める。タイムカプセルを掘り返すというのに、俺の方はスコップを用意していなかった。馬鹿だな、本当に。多分俺は、タイムカプセルを掘り返すことなんかより、ただ彼女に会いたかっただけなんだ。俺が全身全霊をかけて愛した過去の実里に。今目の前にいるのは過去の実里なのか、新しい実里なのか、まだ俺は見当がつかない。実里は俺が雪と土をかき分ける様子をじっと見つめていた。8年前、出会った時と変わらないまっすぐな瞳だった。


「あった」


 カチン、とスコップが固いものに触れる感触がして、俺は一心不乱に周りの土を掘った。中から出てきた見覚えのあるお菓子の缶に、胸が震えた。その缶を見た瞬間、当時の記憶が一気にフラッシュバックして、切ないような嬉しいような、複雑な感情に支配されていた。


「開けよう」


 実里は一点、俺の手元を見つめたまま淡々とそう言った。「ああ」と短く返事をして、俺はお菓子の缶を開ける。中から出てきたのは俺が入れた四角い箱と、彼女が入れた封筒だった。


「これ、今開ける?」


「ちょっと待って」


 彼女が封筒を開けようとするのを止めて、俺は彼女の目を見据えた。松の木の下にしゃがんだままでいた彼女の腕をとって立たせ、松の木の前で対峙する。実里の鼻の頭が赤くなっているのを見て、きっと自分の鼻も真っ赤に染まっているのだと想像した。


「その前に、これまでのことを話してほしい。きみは、嘘をついたよね? 記憶がないっていう嘘。他人の嘘を見破れるという嘘。どうしてそんなことしたんだ?」


 俺の発言が実里の中で核心をついたのか、彼女はざっと一歩足を後ろに下げる。小動物を端に追い詰める肉食動物のような気分になったが、今はそんなこと気にしていられなかった。


「嘘なんて私、ついてない」


 絞り出すようにして言う実里だったが、自分が今この場にいること自体、嘘の証明になってしまうことに気づいたのか、はっと口をつぐんだ。実里、そこまでしてどうして。どうして本当の自分を隠そうとするんだ。過去の自分を隠そうとするんだ。

 聞きたいことなら山ほどあったが、雪の中で身体を震わす実里を見て、俺はいたたまれない気持ちになった。

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