五、二人の真実
第27話
2025年12月24日は、今年最大の寒波が訪れていた。
「まつかぜ」のブログにコメントを書き込んだのが10日前。相変わらず彼女からは音沙汰もなく、これ以上彼女と俺の道が交わることなんてないと思わされる。でも、あのコメントをもしかしたら読んでくれているかもしれないという一縷の希望にかけて、俺は18時に母校に訪れていた。
クリスマスイブが週の真ん中だなんてツイてない、と社会人なら思うのだろう。でもフリーターで宙ぶらりんの俺にとっては、何曜日だろうが関係なかった。
校庭の松の木の下までやってくると、そこにはもちろん誰もいなかった。運動場にはたったいま練習が終わったところだという運動部の生徒がいたが、誰も俺の方なんて気にしてはいなかった。目の前にいる友達と、楽しそうに肩を叩いている。男女で歩いている生徒もいた。みんな、今日が特別な日じゃなくても、きっと全力で一日を過ごそうとしているんだ。俺の目にはそう映った。
松の木の下に腰掛けた俺は、青春映画の主人公にでもなった気分で空を仰ぐ。頬に冷たい何かが当たり、雪が降っているのだと気づく。ホワイトクリスマス。人生で何度か経験したことがあるが、今日ほど身に染みるホワイトクリスマスはなかった。
ぼうっとしていると、ここ半年のことが頭に浮かんだ。結局一つも決まらなかった内定、遡って彼女とディスカッションをした日のこと。全部無意味に終わってしまった。今俺の心を支配しているのは、どこかの企業に就職するのではない、別の将来の道だった。だけどまだ、誰にも言えていない。自分の中でさえくっきりとした輪郭を帯びていない未来の想像を、誰かに話してもいいのか迷っていた。
雪はいつも、淡々と俺の身体を冷やしていく。いつもいつも、どうしてこういう時ばかり雪が降っているんだろう。否が応でも高校三年生の春のことを思い出してしまう。3月なのにまだ雪が降っていて、絶望の穴が俺の足をすくったあの日のこと。志望校不合格というたった一つの事実が、未来を、彼女と笑っている将来を、黒く塗りつぶしていった。
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