第22話

 翌日、放課後に校門で彼女を待っていると、制服姿の彼女が片手を上げてこちらにやって来た。


「遅くなってごめんね」


「いや大丈夫。てかなんで制服?」


「まだ私、この学校の生徒だから」


 実里は今日から学校には来ていないので、別に私服でも良かったのだけれど、彼女には彼女なりの正義というものがあるのだろう。真冬の制服はどんなに中に着込んでいても寒く、特に女子はスカートなんて大丈夫だろうかと毎年心配になる。


「何持って来たの?」


「秘密」


 相変わらず冬の日の朝の空気みたいに澄んだ瞳をした彼女が無邪気に訊いてきた。恥ずかしかった俺は、タイムカプセルで何を埋めるのか、言うことができなかった。


「じゃあ私も秘密にしておこっと」


 実里が楽しそうに微笑んだ。鼻の頭が赤く染まっている。よく見れば耳も、頬も同じように赤かった。きっと俺の顔も、寒さやら恥ずかしさやらで色づいているのだろう。


「どこに埋めるのかは決めてるの?」


「ああ。校庭に松の木があるだろ。あそこなら何年経っても目印になるだろうし、ほとんど人も来

ないからいいかなって」


「なるほど。松の木ね。なんだか縁起が良さそう」


 それならばきみの名前だって。

 俺は最初から、実里のことを幸福の象徴のようだと思ってきたよ。

 そんなポエマーらしいことはさすがに口には出せず、鼻歌を歌う彼女の隣で、5年後、10年後の未来を想像してみた。もしもこの先、ずっと彼女が俺の隣にいてくれたら。どんなにか幸せなことだろうと思う。たぶん、燃えるようなドキドキ感や波乱などはない、穏やかな日常が待っているのだろう。それでいい。俺たちの幸福が永遠に続くのなら。小さな灯みたいに心を温めてくれる。たった一つの炎を、この先ずっと優しく燃やし続けたい。


 松の木の下までやって来ると、持ってきたスコップで穴を掘り始めた。あまり浅すぎると何かの拍子に出てきてしまうかもしれないし、深すぎると掘り返すのに苦労する。ちょうどいい塩梅の穴を掘って、俺は持ってきた物を鞄から取り出した。母親が職場の人間からもらってきたお菓子の缶に入れてある。きっと何年も俺の今の想いを閉じ込めておいてくれるだろう。


「実里も、この中に入れる?」


「そうだね」


 実里が用意したのは一枚の封筒だった。手紙だろうか。彼女の封筒を手に取り、缶の中に一緒に入れた。

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