3

洗った薬草を籠に並べて、朝早くから洗って干していた着物と下履きを取り込んで畳む。

土間に降りて、瓶の中の水を柄杓にすくって飲み、大きく伸びをする。


「腰が痛いな…」


薬草を洗うのに屈んでいたから、腰が痛い。

見た目は若くともやはり歳を取ったな…と苦笑して、はたと気づく。


「遅くないか?」


りつとさよちゃんが、戻って来ない。

花を見に行くだけなら、もう戻って来てもいいはずだ。

もしや、何時ぞやみたいに道に迷った人を案内してるのだろうか。りつは優しいから。

そう思って心配になった俺は、二人を捜そうと家を出て山道に入った。

少し下った所で、「ゆきさん!」と叫びながらさよちゃんが前から走って来た。

俺に突進して来たさよちゃんを抱きとめて、「どうした?」と聞く。


「りっ、りっちゃんがっ…!」


がくがくと震えて、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたさよちゃんの背中を撫でてやる。


「うん、りつがどうした?」

「こ、怖い男の人達が現れて…。わたしの腕を掴んで、引っ張って行こうとして…。りっちゃんが男の人の手を噛んで逃げろって…っ」

「…それで?」

「一番大きい男の人が、こいつ綺麗な顔をしてると言って、りっちゃんを担いで山道を登って行っちゃったっ!うわーんっ」


さよちゃんは、俺に顔を押し当てて声を上げて泣き出した。

さよちゃんが一人で走って来たのを見た瞬間から、俺の心臓が激しく脈打ち、血の気が引いて手足の先が冷たくなった。なのに、手のひらに汗が滲み出てくる。

俺は固く拳を握りしめると、さよちゃんの肩に手を置いた。


「さよちゃん、りつは俺が必ず助けて連れ戻して来る。さよちゃんは、家の中に入って戸口に棒を立てかけるんだ。いいか?俺が戻って来るまで、誰が来ても開けたり返事をしたら駄目だ。少しだけ我慢して待っててくれるか?」

「う、うんっ、わかった。ゆきさん、お願いっ…、りっちゃんを助けてっ!」

「もちろんだ」


俺は、さよちゃんを家の中に連れて上がりかまちに座らせると、板間の部屋の隅の床板を一枚剥がして刀を取り出した。

これは、父の形見の刀だ。

俺は人を斬ったことはないが、腕には自信がある。

俺が出た後に戸口に棒を立てかけるようにとさよちゃんに言って、俺は家を飛び出した。


りつ!無事でいろよ!必ず助けてやるからなっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る