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「こんにちはぁ。りっちゃん、遊ぼ!」
「あっ、さよちゃん!ちょっと待ってて!」
日陰に少し残っていた雪もすっかり溶けた春の日、取ってきた山菜を洗うのを手伝っていたりつの元へ、山の麓の里に住むさよちゃんが遊びに来た。
「さよちゃん、一人で来たのか?昼間でも山は危ないから、遊ぶならりつを行かせるのに」
俺は、山菜を選り分けていた手を止めて、さよちゃんに笑いかける。
さよちゃんは、俺の傍に来ると、くりっとした大きな目を細めた。
「大丈夫よ。ゆきさんが山道の周りの木を切ってくれてるから明るいし。それに、危ない時はりっちゃんが守ってくれるし!」
「りつが?」
「そうだよ!さよちゃんが危なくなったら、僕がすぐに駆けつけるんだ」
いつの間にか手を拭いて、りつが俺の隣で胸を張っている。
そのとても頼もしい様子に、俺の顔が自然と緩んだ。
「そうか。りつはお姫様を守る立派な武士だな。ではりつ殿、必ず姫を守ってくだされよ」
「うんっ…あ、コホン。わかっておる」
「ふっ」
「可愛らしい武士だ」と呟いて、俺から離れて遊び始めた二人を見やる。
こうやって見ると、りつは普通の男の子だ。
少し人間離れした綺麗な顔をしているが、さよちゃんと笑い合ってる姿は、とても鬼には見えない。
あの老人に忠告されてから注意深く様子を伺って、角が生えてくるのかと毎日頭を触ったりもした。だけど全くそんなことも無く、ただただ素直な良い子に育った。
あの老人の勘が外れていたか…。
「ゆきはるっ」
ぼんやりと考え事をしていると、りつの高い声が聞こえた。
俺は顔をりつに向けて「どうした?」と聞く。
りつは、可愛らしく首を少し傾けて、俺を見上げた。
「さよちゃんが、来る途中に綺麗な花が咲いてる所を見つけたんだって!見てきてもいい?」
「いいけど、ここから遠いのか?」
俺は、りつの頭を撫でながら目を細める。
「ううん。ちょっと下った所だって」
「そうか。気をつけて行くんだぞ。何かあったら笛を鳴らせ。すぐに駆けつける」
「うんわかった!」
りつは、首にかけてある紐を引っ張って、紐の先に括りつけてある小さな笛を見せて笑った。
俺が、細い竹から作った笛だ。
りつの護身用に持たせてある。
この山は比較的安全な所なのだが、数年に一度の割合で盗賊が出ることがある。
りつは、女の子と見紛うくらいに綺麗な顔をしているから、もしも不審な輩に出会ったら絶対に攫われてしまう。
俺が必ず守るつもりだが、用心の為に持たせたのだ。
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