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転がる勢いで山道を駆け下りて行くと、脇に逸れた獣道の奥から笛の音が聞こえてきた。

りつが持つ、竹笛の音だ。

俺は、一瞬足を止めて耳を澄ませ、肝を冷やす。

すぐに笛の音が止んで、野太い男達の声に混じって、微かにりつの声が聞こえた。


「りつっ!」


俺は、逸る気持ちのまま獣道を突き進む。

開けた場所に出ると、数人の男達の背中が見えた。


「貴様らっ!何をしているっ!」


怒鳴りながら突進して、男達を跳ね除ける。


「うわっ!なんだてめえっ!」

「殺されてぇのかっ!」


跳ね飛ばされた二人の男が、すぐに立ち上がり両側から俺の腕を掴んだ。

強い力で掴まれて顔を歪ませながら、俺は怒りと恐怖で身体を震わせる。


「りつっ!」

「やだっ!やめ…っ!…あっ、ゆきはるっ!」


目の前で、二人の男がりつの腕を押さえ、もう一人の特に身体の大きい男が、りつの上に覆い被さろうとしている。


「貴様っ!離れろっ!」

「さっきからうるせぇな。なんだおまえ?」


ゆっくりと身体を起こした大男の下で、着物がはだけ、真っ白な胸や腹があらわになったりつが、真っ青な顔でガタガタと震えていた。

俺は、掴まれている両腕を力任せに振り解くと、怒りで我を失いそうになるのを、深く息を吸って落ち着かせながら、ゆらりと大男の前に進んだ。


「…貴様こそ、なんだ?その子に汚らしい手で触れるな。盗賊めらがっ!」

「ああ?なんだてめぇ、俺をバカにしたのか?…まあいい。後でなぶり殺しにしてやる。あのな、こいつは俺の獲物だ。俺が美味しくいただく間、そこで指でもくわえて見てろ」

「…下衆げすが」


俺は、左手に持っていた刀の柄を、カチャリと親指で押し上げる。


「あ?やんのか?」

「無論だ。貴様が話してわかる頭を持ち合わせていないようなのでな。力でわからせるしかないだろう?」

「ああっ?穏便に済ませてやろうとしたのに調子に乗りやがってっ!仕方ねぇ。死なない程度に痛めつけて、てめぇも慰みものにしてやるよっ!」


そう言うと、大男が立ち上がる。

りつを押さえ込んでいた二人の男も立ち上がり、一人が大男に刀を渡す。

最初に俺に跳ね飛ばされた二人の男達も俺の背後を囲み、俺は五人の男達に囲まれた。


「ゆ、ゆきはる…っ」

「心配するな。すぐに済む」

「てめぇ、一人で俺達に勝てると思ってるのか?わははっ、馬鹿な野郎だっ」

かしら、早く痛めつけて動けないようにしてやろうぜ。こいつ、綺麗な顔をしてやがるから、きっと高く売れますぜ」

「阿呆がっ。売る前にこいつも散々いたぶってやるんだよ。偉そうに吠えたこいつが泣く姿を早く見てぇ…」

「俺はそっちの子供の方がいいなあ。柔らかそうな肌をしてるし、なにより可愛い」


口々に話す男達の下卑た内容に、俺の頭に血が昇って倒れそうだった。

こんなっ、下卑た奴らにりつを触らせてなるものかっ!

大男が、一歩前に出て刀を振り上げた瞬間、俺は、刀を抜きざまに男の手を斬った。

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