10

「りつ!」


俺はりつに駆け寄ると、膝をついて強く抱きしめた。


「この阿呆がっ!どこに消えたかと心配したぞっ!」

「…ごめんなさい…」


思わず怒鳴ってしまった俺に、りつが素直に謝る。その余りにもしおらしい様子にバツが悪くなって、優しくりつの背中を撫でた。


「いや…怒鳴って悪かった。とにかく無事で良かった…」

「ううん…ごめんね…。ゆきはる、怖かったの?震えてるよ…?」

「え?」


りつに言われて自分の手を見る。確かに、小刻みに震えている。

俺は、りつを失うことがこんなにも怖いのか…と、もう一度しっかりとりつを抱きしめた。


「坊やの父親かな?」


その時、いきなり声が聞こえて、驚いてりつを抱きしめる腕に力を込めた。


「…誰だ?」

「このおじいちゃんが困ってたの。だから、僕が手伝ってあげてたの」

「手伝う?」


りつが、苦しそうに俺の胸を押しながら言う。

俺は、腕の力を緩めると、りつの肩を掴んで顔を覗き込んだ。


「うん。おじいちゃん迷子になっちゃったんだって。それでね、この大きな石の所に行きたいって言うから、僕、さっきゆきはると来て知ってたから連れて来てあげたの」

「それは良いことをしたが、勝手に知らない人について行っては危ないだろ?」

「んぅ?でもゆきはる…お仕事してたし、おじいちゃん困ってたし…」


しゅん…と俯いてしまったりつを見て、俺の心が痛む。

怒りすぎたかとりつの頭を撫でていると、老人が申し訳なさそうに話し出した。


「いや、誠に申し訳ない。わしが坊やにお願いしてしまったばかりに、お主に心配をかけさせてしまった。この通り謝るので坊やは許してやってくれんかの」

「…あなたを不審に思ってる訳ではないのです。この辺りに、時おり良からぬ輩が出ることがある。それゆえ心配し過ぎてしまった。もし不快な思いをさせてしまったのなら謝ります」


俺は、りつの手を握りしめて立ち上がり、老人に向かって軽く頭を下げた。

老人も慌てて頭を下げ、それを見たりつも頭を下げる。

三人が一斉に頭を上げて目が会った瞬間、声を上げて笑い出した。


「ははっ、坊やは実に良い子じゃな。お主が大切にいつくしんでるのがよくわかる」

「うんっ!ゆきはるはとっても優しいんだよ!」

「ゆきはる?坊やは父親のことを名前で呼んでるのかね?」

「ゆきはるはお父ちゃんじゃないもん」

「ん?違う?」


老人が、問いかけるように俺を見てくる。

俺は、りつの手を引き寄せて肩を抱くと、老人にぽつぽつと話し出した。

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