8

「ゆきはる…」


小さな手が俺の頬に触れて、驚いて目を開く。

すぐ目の前で、りつが困った顔で俺を見ている。

どうやら俺は、昔のことを思い返しているうちに眠ってしまっていたようだ。


「どうした?りつ」

「おしっこ…」

「ん、おいで」


俺は身体を起こすと、りつを抱いて土間へ降りる。突っ張り棒を外して扉を開け、外に出て家の裏側にあるかわやまで行き、りつを降ろした。


「ほら、一人でできるだろう?」

「うん、待っててね」

「ああ」


りつが用を足す間、腕を組んで夜空を見上げる。無数にまたたく星を見て、すぐに寒い季節がやって来るだろうから、薪を補充しないといけないなと考えた。


「ゆきはる、終わったよ。何見てるの?」

「お、ちゃんとできたか?偉いな。ほら、りつも見るといい。星が綺麗だろ?」

「わあっ、ほんとだ!きらきらしてるっ!あっ、星が落ちたっ!」

「ふふっ、星が落ちてしまう前に願い事を言うと叶うらしいぞ」

「そうなの?あっ、また落ちたっ。えっとえっとっ、僕のお願い…」

「なんだ?」

「ゆきはるとずっと一緒にいれられますようにっ」

「ははっ!言葉がおかしくなったぞ。そうか。りつの願いと俺の願いは同じだな」


俺の手を握りしめて見上げてくるりつの脇に手を入れて抱き上げ、頬を寄せる。


「ほんとっ?やったあ!ずっとずっと一緒にいてね。僕といてね」

「ああ。りつが嫌だと言っても離れない」

「うんっ、ゆきはる大好き」

「俺もだ、りつ」


りつがふふっ…と笑って、ぐりぐりと頬を擦りつける。りつの柔らかい頬と唇が擦れて、こそばゆい。


「さあ、りつ。まだ朝まで遠い。暖かくして寝るぞ」

「うん。ゆきはると寝る…」


そう言いながら瞼を擦ると、りつは俺の肩に頭を乗せてすぐに眠ってしまった。

そのあどけない寝顔に、胸の奥から愛しさが込み上げてくる。

俺はもう、この先ずっと一人で生きていくのだと思っていた。

だけど五年前、思わぬ形でりつと出会った。

亡くなったりつの母親には悪いが、りつを俺の元に残してくれたことに感謝する。

りつを抱きしめて寝転び、薄い布団と毛皮を被って目を閉じる。

りつの柔らかい身体と子供特有の温かい体温が心地好くて、俺もすぐに眠りについた。


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