第4話
さて、その日と言っても、悪いけど正確な日時はぼかさせてもらうけれど、とにかく、そんなゴールデンウィークが明けて、しばらくしたある日も、僕は当たり前のように、事実それを当たり前だと感じながら学校に通っていた。
自転車で少し距離のある坂を登る。
正直な話、別に自転車を押して坂を登って行ったとしても、別段構うことはないし、それぐらいの時間的余裕は持たせた上で、僕は普段登校していたわけだけれど、しかし僕は、僕の心はそれを許さなかった。
僕の小さなプライドが、この坂の途中で自転車を降りることを許さなかった、つまりは意地になっていたというのも、もちろん理由の一つではあるが、それ以上に僕には、この坂を登り切らないといけない理由があったのだ。
というのも、この坂道は実は結構幅の広い類の道で、車通りもそこそこあれば、人通りも多かったのだ。
人通りが多いということは、当然、この坂を通学に使用する学生も多いということになる。
名前も顔も知らない、赤の他人ならいざ知らず、同じ学校の生徒が多くいる坂道で、自転車を押して上がる、自らの弱みを晒すと言ってもいいかもしれない行為に走るのは、当時の僕にとっては度し難いことだった。
加えて、この坂道を利用する自転車通学者は、何も僕だけではない。
男女問わず、多くの自転車通学者がこの坂道を登っていた。
それも、実に腹立たしいことに、その大半、女子に至ってはほぼ全員が、電動アシスト付きの自転車に跨っていたのだ。
彼ら彼女らは、そろそろ気温も上がって来る季節だというのに、涼しい顔をして坂を登っていく。
その姿が実に腹立たしかった。
時代錯誤だと言われるかもしれないが、それでも、僕も男の端くれとして、女子が自転車で登れる坂道を、歩いて登るわけにはいかなかったのだ。
とは言え、結論から言えばこの日の僕は、坂道を自転車を押して登ることになる。
後ろの方から、僕の名前を呼ぶ声が聞こえたからだ。
声は男性らしい低いがよく通ったもので、僕にとっては馴染みの深いものだった。
僕は自転車を坂道の途中で止めて、そこから降りて声の主が坂を登って来るのを待っていた。
「やっと追いついた」
声の主の男は僕のすぐ隣まで自転車を漕いでからそう言って、その後僕と同じように自転車を降りた。
彼——プライベートな情報なので、彼の名前については伏せさせてもらうが、仮に佐藤と呼ぶことにしよう。僕がこの話をしている今現在、日本で一番多い苗字でもあることだし。
僕と佐藤は二人で縦一列になって、再び学校を目指し始めた。
何せ、利用者の多い歩道だ。横一列になって歩道を占有するわけにはいかない。
ちなみに、並び順は佐藤が前で僕がその後ろをついて行く形だ。
これについては、実は僕と佐藤の関係性をよく表したものになっている。
僕と彼は高校からの仲で、二人同じ部活でバスケットボールに励んでいた。
佐藤は明るく、活気あふれる正確の人物で、リーダーシップがあり、何でも中学時代は生徒会長をやっていたそうだ。
そんな彼は学校内でもチームのまとめ役になることが多く、部活でも学級の活動でも、自然と周囲の人間をまとめ上げることのできる人物だった。
それに対して、僕は外交的ではあるものの、あまり矢面に立つことは好まない性格の人間で、誰とでも仲良くできるが、僕を中心に人が集まることはない、そんな人物だった。
だから、佐藤が前を歩いて僕がそれについて行くというこの格好は、ごく自然なもので、収まりのいい形だった。
これが、僕らの正常だったのだ。
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