第3話
さて、当時の僕はいったいどんな人間だったのかというと、この捻くれた今の僕からは想像もつかないほどに真っ直ぐな人間だった。
高校に進学してすぐの、ゴールデンウィークが明けたあたりから話を始めよう。
当時の僕は中学から続けていたバスケットボールをそのまま高校での部活動に選び、主に同じ部活に所属する友人たちと一緒に、そこそこ楽しい青春を謳歌していた。
恋愛については、人生初の恋人であった中学時代の交際相手に振られたのが、ちょうどこのあたりで、少し奥手になっていたように思う。
確か別れた原因は、相手の女の子に新しく好きな人ができたとか何とかで、そんな感じのありふれた理由だったように思う。
実を言うとこの相手とは進学した高校が別だったのもあって、正直そんなに長続きするような気配はなかったのだが、それでもいざ振られてみると、なかなかに心が痛んだのを、今でも覚えている。
とにかく、当時の僕という人間は、そんなどこにでもいる、失恋真っ只中の男子高校生だったのだ。
日々の生活は単調なものの繰り返しで、朝起きて、学校へ向かい、学業と部活に励み、たまに放課後に友人と少しばかりはしゃいで、家に帰る。そんな毎日だった。
今思えば、よくもまあ、あんなくだらないことの繰り返しで、人生を楽しめていたものだと、当時の自分が少しばかり羨ましい。
最も、当時の僕から見れば、一見楽しそうなその日常も、やっぱりどこかつまらなく感じる瞬間はあっただろうし、あんな平凡な日々をもし仮に『青春』だなんて呼ばれたとしたら、それこそ心の底から辟易するだろう。
さて、そんな当時の僕、ここからは便宜的に当時の僕のことを『僕』と呼ばせてもらうが(これも当時の僕から見れば相当に嫌なことなのだろう)、僕には一つ趣味というか、楽しみがあったのだ。
もちろん、それ以外の他のことは全て退屈だったという意味ではないが、ともかく、僕は登下校をひそかな楽しみの一つにしていたのだ。
登下校が楽しみ、というのも結構変わった趣味だとは思うが、これには一つ明確な理由があった。
というのも、僕は通学手段として自転車を採用していたのだ。
高校進学に差し当たって、新しい自転車を親から買い与えてもらった僕は、その自転車と共に走る片道二、三十分の通学路を実に楽しんでいたのだ。
ちなみに、そんな僕の楽しい自転車の旅路にも、実は好みが存在して、行きより帰り道が好きだった。
『行きはようよう帰りは怖い』なんて言葉があるが、僕の場合はその逆だったのだ。
まあ、これも一風変わった理由があるとかそんなことはなくて、単に坂道の具合が帰りの方が都合が良かったのである。
より詳しく説明するなら、実は僕が通っていた高校というのは、ちょっとした小高い丘の上にその校舎を構えていて、帰り道にその長い下り坂を駆け降りるのが僕の好みだったのだ。
逆に行き道の場合は、やっと学校のそばまでたどり着いたと思ったら、そこから少し長めの上り坂が待っていたので、これが正直言って、かなりきつかったのだ。
差し詰め、物語終盤に出てくる最後の敵、ゲームのラスボスとでもいった具合に、僕を精神的にも、体力的にも苦しめてきたのだ。
さて、随分と話し込んでしまった気もするが、ともかく当時の僕の状況説明は、だいたいこんなものだろう。
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