第30話 帰還
「……キースは大事な用事があったのよね? その大事な用事は済んだの?」
少し時間が経ち、フィーネの疑いの目も無くなったところで、フィーネは俺にそう尋ねた。
「ああ、それはまだ済んでない。俺もいつまで続くのか分からないし……」
「え? いつまで続くか分かんないって……何よそれ……」
フィーネは俺の言葉に目を丸くして驚く。
まぁそういう反応になるよな。
俺の大事な用事はリヴィアをゲームの主人公として世界を救わせることだ。
こんないつまで続くか分からないこと……俺でもよく分かってない。
「はぁ……キースは変わらないわね。いつも変なことばかり言ってる」
フィーネは呆れたような深い溜息を吐いた。
……え? 俺って昔から変なことばかり言ってるのか?
いや、そんなつもりはサラサラないんだけどな……。
最近変な奴と会いすぎて、変の基準がおかしくなっているのかもしれない。
「あ、そうだ。もう行かなきゃダメだ。悪いな」
俺はそんなことを考えている途中で、リヴィアのことを思い出し、フィーネにそう切り出した。
「え!? ち、ちょっと!! 待ちなさいよ!」
フィーネが俺の事を引き留めようとしてくるも、今度はその手を躱した。
「すまん! 次は時間取っとくから!」
俺はそうフィーネに言い残し、その場を離れた。
************
「あ、キースさん。おかえりなさい」
フィーネから半ば逃げ出し、あの路地裏の場所に戻ってきた。
リヴィアの顔を見ると、少しだけ安心してしまう。
王都はゲームの舞台だ。
どんなことがあっても不思議じゃないからな。
リヴィアに何も無くてよかった……。
「…………ん? え?」
安心してリヴィアを見つめていると、俺はとある違和感に気づいてしまった。
リヴィアの頭上の角を隠していた包帯が消えていた。
「あ、あれ? 包帯は? 邪魔だった?」
「ああ、包帯ですか? 包帯は……その……」
リヴィアは気まずそうな表情で視線を動かした。
俺は不思議に思い、リヴィアの視線の先を見てみると……。
「ふふ、安心してください使徒様。女神様の角には既に隠蔽魔法を施してあります」
リヴィアの視線の先には、シルヴィアがドヤ顔で立っていた。
リヴィアの角に隠蔽魔法を……?
隠蔽魔法っていうのは、そんなに万能なものなのだろうか。
俺はシルヴィアの言葉に驚きながらも、何とか包帯が無くなっていた理由を理解した。
「包帯に関しては私たちが大切に保管しますね。あれは千年後の女神教徒達のためにも残さなければなりませんから」
シルヴィアはどこからか取り出したピンセットで、使い終わった包帯をケースにしまった。
いや、千年後の女神教徒って……そんなのないない。
存在しないよな? え? そ、そうだよな……?
頭に浮かんだ疑問のせいで、少しだけ不安になってしまう。
「そう言えば使徒様。今日は女神様とどこの宿で休まれるのですか?」
「え? ああ、確かに……」
シルヴィアの質問に、俺は思わず言葉に詰まってしまう。
今日……どこで泊まろう。
今日は色々ありすぎて、とにかく心配すぎる。
聖騎士はあんな様子だし、一応仲間のはずの女神教もこんな感じだし……。
完璧に安全と言える場所が欲しいけど……そんなの王都にはなさそうだよなぁ。
「ふふ、使徒様は安心できる宿を探しているのでしょう? それならば、僭越ながら私が宿を提供させて頂いてよろしいでしょうか?」
すると、頭を悩ませる俺を見ながら、シルヴィアは笑みを浮かべる。
「え、ええ……? シルヴィアが……? 安全な宿を……?」
俺はさっきの事もあって、全くシルヴィアを信用できなかった。
「う、疑ってるんですか!? 私を!? 私は死んでもお二人を守り抜く覚悟なんですよ!? そ、それならもう一度信仰心を見せた方が……」
シルヴィアに疑いの目を向けると、シルヴィアは涙目になりながらそう叫んだ。
も、もう一度信仰心を見せる!?
俺は嫌な予感がして、背中に悪寒が走る。
やばい! あのモンスターをまた繰り出される!
「わ、分かった!! シルヴィアの信仰心は分かったから!! さっきのはもう止めてくれ!」
俺はシルヴィアの手を掴み、大声でそう訴えた。
「…………本当ですか?」
「あ、ああ、うん。本当……」
涙目のシルヴィアに俺は首を縦に振りまくった。
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