第29話 会話
「──うわああああああああああああああっ!!!」
シルヴィアの放ったモンスターの場所に急いで向かうと、すぐに聞いたことのある気がする叫び声が聞こえてきた。
声のした方に急いで向かうと、そこには見慣れた顔の少女が目を閉じたまま、モンスターに向かって突撃していた。
な、何をしているんだ? あれってフィーネだよな?
俺はそう思いながらも、目の前のモンスターに剣を振り下ろす。
剣はモンスターの首に突き刺さり、そのままモンスターは世界から消えていなくなってしまった。
まるで災獣のような挙動に驚きつつも、俺にはもっと驚くべきことがあった。
「うわああああああああああああああ!!」
……それは何も無い空間に突進を続けるフィーネのことだった。
手には小さな短剣を携えながらも、瞼は完全に閉じきっている。
まさか、この小さな剣でモンスターを倒そうとしたのか?
い、いや、そんなわけないか……。
「な、何やってるんだ? フィーネ?」
俺は壁にぶつかりそうなフィーネを止め、困ったような声でそう尋ねた。
「……え?」
すると、俺に止められたフィーネが唖然とした表情で、その琥珀色の瞳を開いた。
***************
フィーネは子供の頃からの幼馴染だった。
ほとんどレベル上げに時間を費やした子供時代において、フィーネは唯一とも言える交友関係だったと思う。
というか、ずっと死にたくないがために剣を振り続ける奴に話しかけようとするなんて、フィーネくらいしかいなかった。
「…………はぁ」
微妙な空気が流れながらも、隣から小さくフィーネの溜息が聞こえてきた。
モンスターを倒し終わり、俺とフィーネの前に残ったのは半壊の建物だけだった。
そんな半壊の建物中で、俺とフィーネは微妙な空気感の中で助けを待っていた。
「だ、大丈夫なのか? その人は……」
俺は微妙な空気感を打開せんと、フィーネに話を振ってみる。
「……大丈夫よ。気絶してるだけだから」
フィーネはベッドに横たわるセリナの方に視線をやり、そう言った。
「あ、ああ……うん、大丈夫ならいいんだ」
俺はぎこちない返事をフィーネに返した。
よ、よし、もう良いかな。
ちょっと会話したし、もうリヴィアの元に帰るか。
「あ、じゃあ、俺はここで……」
俺はフィーネの方を見ないようにそう言った。
「……ダメ。まだ隣にいて」
すると、フィーネは離れようとする俺の手を恐ろしいほど強い力で掴んだ。
フィーネの柔らかい手がギュッと手に沈み込む。
「……ねぇ、なんで急にいなくなったの?」
フィーネは俺の手を握り締めたまま、低い声でそう言った。
フィーネの琥珀色の目を見ると、ゾッとするような悪寒が俺の背中に走った。
これは……怒ってる。
絶対そうだ。
フィーネは感情に任せて怒るタイプじゃなくて、静かに怒るタイプだ。
俺は額に汗が流れるのを感じつつ、脳内で言葉を慎重に選んだ。
「ちょっとだけ用事があったんだよ。別に誰でもあるだろ?」
「じゃあ、どうして私に何も言わなかったの?」
俺がそう言うと、途端にフィーネはグッと顔を近づけてくる。
琥珀色の大きな瞳が眼前にまで迫り、俺は後ずさりをする。
「そ、それは……別に必要ないかなって……」
俺はフィーネから目を逸らしながらそう言った。
つい同じ言い訳を繰り返してしまった。
これは……悪手だったか?
俺は恐れながらもフィーネの反応を伺う。
「……まぁいいわよ。こうやって私を助けに来てくれたんだもんね。キースは私を助けに来てくれたんでしょ?」
「え? あ、ああ! そう! 助けに来たんだ! 偶然とかじゃなくて……」
フィーネの言葉に俺は食い気味に乗っ掛かり、そう言った。
「ふふっ、ありがとう。キース」
フィーネはそんな俺に向かって嬉しそうな笑みを見せた。
少しだけズキっと心臓が痛むが、これもやむ無しだ。
俺はそう自分を納得させた。
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