第25話 門番
目の前に王都と外を繋ぐ門が見えた。
あそこを通ることができれば、そこから先はゲームの舞台である王都の世界だ。
俺は門の前に立つ門番を見ながらゴクリと息を飲んだ。
「こ、これ……大丈夫か……?」
俺は隣を歩くリヴィアを改めて見てみる。
リヴィアの頭にはグルグルと包帯がまかれていて、角は見えない。
しかし、包帯に隠れていても、その角の形は分かってしまう。
「さっきは誤解してましたけど、キースさんは私が王都の人に疑われることを避けようとしているんですよね? もしかして、人間じゃないんじゃないかって疑われることを……」
俺の視線に気づいたのか、リヴィアは門の方を見ながらそう話し始めた。
「き、気づいてたのか……。まぁ、そうだな。人間ってあんまり角が生える生き物じゃないからな……」
……てか、角が生える人間ってリヴィアが初めてだけど。
「ふふ、それなら安心してください。私は大丈夫ですよ」
すると、リヴィアは小さく笑ってそう言った。
**********
「……王都に何の用だ?」
門をしれっと通り過ぎようとすると、大柄の門番が俺とリヴィアの前に立ちはだかった。
まぁ、そうだよな……。
こんないかにも怪しそうな二人組を見逃すわけないか。
「王都に知り合いがいるから、会いに来た。別に不思議なことじゃないだろ?」
溜息が出そうになりながらも、俺は門番にそう言った。
「最近は王都の治安はすこぶる酷い。聖騎士の奴らの横行に、新興宗教の出現……だからな、お前らみたいな怪しいヤツを通す訳にはいかないんだ」
大柄の門番は俺の顔を睨みながら、そう言い放った。
「どうして俺たちが怪しいんだ。普通の二人組だろ。入れないなら入れないなりの理由を言ってくれ」
そうだ。俺とリヴィアは普通の二人組だろ。
そこら辺にいても違和感もないし、どこにでもいそうな二人組だ。
そんな俺たちを街に入れないなんて、どういう理屈なんだ!
「頭から角が生えててもか?」
「…………あ」
門番はリヴィアの頭を指さしながらそう言った。
やっべ。
普通にバレてたんだ。
というか、この門番の観察力がすごいだけだろう。
こんな小さな角を見逃さないとは……。
俺は少し感心しながらも、普通に焦り始める。
「こいつは魔族なのか? 魔族ならこちらもやるべきことがある」
門番がリヴィアを睨みながら、長剣を鞘から取り出した。
ま、まずい。
「いや、違う! リヴィアは普通の人間で……」
俺は何とか門番を止めようと、必死に口を挟む。
「お前は退いてろ!!」
しかし、門番は目の前の俺を突き飛ばし、リヴィアに迫った。
やばい……。
このままじゃ、せっかくの王都進出が止まってしまう。
俺は危機感を覚えながらも、目の前の状況を見守ることしかできなかった。
「お前は……魔族なのか……? まだ生き残っていたのか……?」
門番がリヴィアに向かって、そう尋ねた。
長剣を握り締める門番の手は震えていて、額には汗が浮かんでいた。
まぁ、門番がこんな風に焦るのも無理もなかった。
魔族というのは数十年前に、魔王という存在と共に現れた種族だ。
かつて王都ですら魔族の手に落ち、帝国も王国も関係なく、魔族に人類は蹂躙されていた。
魔族への対策が見つかった現代において、魔族は驚異ではなくなり、魔王も姿を消した。
それでも、角のある人間の姿をした魔族というのは人々の記憶に焼き付いている。
「どうなんだ!? お前は魔族なのか!?」
門番は沈黙を守るリヴィアに向かって、そう怒鳴った。
「……私は魔族じゃないですよ。門番さん」
すると、リヴィアは小さく笑みを浮かべた。
「私は普通の人間。キースさんがそう言うんだから、そうなんです」
その瞬間、リヴィアの瞳が妖しく光り、不気味な魔力が辺りに流れる。
リヴィアから発せられる異質な魔力は、リヴィアの瞳に集中する。
酷く不気味な雰囲気が辺りを包み込んだ。
「…………そ、そうか。それも……そうだな……」
すると、門番はリヴィアの瞳を見つめながら小さく頷いた。
そして、門番はフラフラと覚束無い足取りで、門を開けてくれた。
「キースさん。この人、通してくれるそうですよ」
リヴィアはまだ紫色に発光したままの瞳を俺に向けた。
「り、リヴィア……? その人に何かしたのか……?」
俺はリヴィアの紫色の瞳を見つめながら、そう尋ねた。
「……少しお願いしただけですよ。行きましょう。キースさん」
リヴィアは大きな瞳を俺に向けながら、そう小さく笑みを咲かせた。
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