第24話 角

 あの山小屋を出てから数日が経った。


 辺境から王都に行くまでの道なんて、この世界には存在しない。


 その殆どが舗装されていない山道であり、その道は多くの危険を内包する。


 少なくとも、あそこから王都に行く為にはBランク以上の冒険者を雇うのが基本である。


 そうでもしないと、自然発生する魔獣に食い殺されてしまう。




「─────ガルルルルルル!!」


 目の前の魔獣が低く唸り声を上げる。


 目の前の魔獣はそこそこ上級の魔獣だ。


 熟練の冒険者でも油断すればあっさりと命を奪われてしまう。


 それがモンスターであり、それが人間の限界でもある。


「《黒死》」


 すると、俺の横に立っていたリヴィアの低い声が聞こえてくる。


 次の瞬間、リヴィアの手に黒い魔力が集まり、それが一気に発散する。


 恐ろしいほどの魔力の純度を保ちながら、その塊は目の前の魔獣を意図も簡単に貫いた。


 驚くほどの魔法技術と魔力濃度。


 天才……いや、そんな言葉では表せない。


 化物……それが適切な表現な気がする。


「す、すごいな……リヴィア……」


 俺は化物と形容したリヴィアを見ながら、そう呟いた。


「そ、そうですか!? キースさんがそう思ってくれるなら嬉しいです……!」


 リヴィアは頬を緩めて、嬉しそうな顔を見せた。


 そんなリヴィアを見て、俺もふっと笑みがこぼれる。


 まぁ、リヴィアは主人公だ。


 この異様な魔法も、成長速度も驚くことじゃないのかもしれない。


 俺の考えすぎ……きっとそうだろう。




 ********





「……王都はもうそろそろだな」


 俺は遠くに見えてきた城壁を見つめながら、そう呟いた。


「キースさん。そう言えば、王都ってどんな場所なんですか? 怖い人が沢山居たりするんですか……?」


 俺がそんなことを考えていると、突如としてリヴィアは不安そうな顔を俺に見せた。


「怖い人……? どうだろう……」


 俺はリヴィアの質問に頭を悩ませる。


 確かに怖い人は多いのかもしれない。


 王都は貴族や商人が多いからな……。


「まぁ、悪い所じゃない。リヴィアもきっと気に入るはずだ」


 俺はリヴィアの不安を取り除こうと、そう言った。


「そうですよね……。私も……人と仲良くできますよね……」


 リヴィアは小さく消え入りそうな声でそう言った。


「…………ん?」


 そんなリヴィアを見て、俺は少し違和感を感じてしまう。


 ずっと二人で過ごしてきた。


 そのせいだろうか。今までリヴィアの容姿に違和感を覚えたことはなかった。


 しかし、王都を前にして冷静になってしまった。


「もしかして……角……やばいか?」


 リヴィアの頭から生える二本の紫色の角。


 まぁ、角は人間からはあまり生えにくいものだ。


 というか、多分人間からは角は生えない。


 リヴィアだけが特別なのだ。


「ち、ちょっとリヴィア……立ち止まって」


「へ? な、なんですか……?」


 俺はリヴィアを止め、荷物を漁り始める。


「あった……ちょっと動かないでね……?」


 俺は荷物から包帯を取り出し、リヴィアの頭にそれをグルグル巻きにする。


「ふ、ふぁっ……ち、ちょっと……き、キース……さん……あっ……」


 遠慮なくリヴィアの角に包帯を巻き付けていると、リヴィアは妙に色っぽい声を出し始める。


「な、なんだ? もしかして、どこか悪いのか!?」


 俺は心配になり、リヴィアの角を触って様子を見てみる。


 傷は無さそうだ……。


 どこが悪いんだろうか……。


 俺はリヴィアの角を触って色々確かめてみる。


「ち、ちょっと……キースさんっ……あっ……」


 その間もリヴィアは少し様子がおかしかった。


 何が原因なのだろう……。


 俺は頭を悩ませる。


「はぁっ……はぁ……き、キースさん……角は……触っちゃダメです……」


 すると、顔を真っ赤に染めたリヴィアが息を切らしながら、俺の手を掴んだ。


「え……? な、なんで……?」


「そ、それは! その……それは秘密ですけど……」


 俺が理由を尋ねると、リヴィアはより一層顔を赤くしてそう言った。


 とにかく、リヴィアは角を触られたくないのか……。


「ごめん。リヴィア」


「い、いえ! た、ただ……外じゃなくて部屋の中なら……私も準備は出来てます……」


 リヴィアはそう言うと、俺の目から視線を逸らして俯いてしまった。


 部屋の中なら……?


 俺はリヴィアの発言をあまり理解できなかった。

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