第19話 好きならいいですよね?

「ああ、これですか? キースさんはこの角が嫌いなんですか……?」


 俺が驚いたような表情をしていると、リヴィアは小さな角を手で触れながらそう言った。


「い、いや、そういう訳じゃないけど……」


 俺はリヴィアの悲しげな表情に、少し罪悪感が湧いてきてしまう。


 別にリヴィアの角が嫌いとかじゃない。


 ただ問題は普通の人間は、頭に角なんて生えないと言うことだ。


 どういうことだ……? リヴィアは何かが少しおかしい気がする。


 俺はリヴィアの角を見つめたまま、そう悩んでいた。


「キースさんは私のことをずっと大切にしてくれるんですよね? どんな私でも、絶対好きだって言ってくれるんですよね?」


 すると、リヴィアは俺の両手をギュッと握り、冷たい声でそう尋ねた。


 リヴィアの吸い込まれるような紫色の瞳が眼前に迫り、ゴクリと俺は息を飲んでしまう。


「それは……そうだけど……」


 俺は少し狼狽えながらも、そう答えた。


「ふふっ、そうですよね。キースさんだけは私を裏切ったりしませんよね……」


 ギュッと俺の手を握る、リヴィアの力が強くなっていく。


 目の前のリヴィアに、俺はどうしてか潜在的な恐怖を感じてしまった。


 リヴィアは、俺より一回りも年下の少女のはずなのに。



「あ、見てください。ステータスが上がってますよ!」


 次の瞬間、リヴィアはさっきまでのことが何も無かったかのように、笑顔でそう言った。


 差し出された石版には、上昇したリヴィアのステータスが表示されていた。


「あ、ああ……うん……そうだな……」


 俺は上手く誤魔化されたと勘づきながらも、ステータス表示を読むことにした。


 前回と同様に、軒並みリヴィアのステータスは上昇していた。


 前回と変わったことと言えば……独占の桁数が1個増えたくらいか。


 この独占というステータス、どういう効果を持つのかは分からない。


 まぁそもそも初期値が9999の時点で、あんまりリヴィアに影響しないものなのだろう。


 9999が99999になった所で、何か変わる訳でもなさそうだ。


「あっ、見てください! 年齢が16になりましたよ! キースさんに追いつくまで、あと少しですね!」


 すると、リヴィアは石板を見つめながらそう言った。


 16歳……か。


 もう16歳ってことは、ゲーム開始時点よりも一年のアドバンテージを既に取れているのか。


 ゲーム開始時点はあともう数ヶ月後のはずだ。


 開始前の時点でこれは素晴らしい成果だ。


 俺はリヴィアの成長の順調さに、表情が綻んでしまう。


「確か、王国の法では16歳になると女性は結婚できると書いてありましたね……。そうですよね? キースさん」


 すると、リヴィアは頬を紅く染めながらそう言った。


「それは……そうだけど……」


 俺はリヴィアの表情を見て、一歩後ろに下がってしまう。


「ふふっ、冗談ですよ。まだ……その時じゃありませんから」


 リヴィアはそう言って悪戯な笑みで笑った。






 *******




 数日後、俺は山小屋を離れ、山奥の教会に来ていた。


 あれから教会の方に変わりはないだろうか。


 帝国軍の動きも知っておきたいし、アレクシスとも話すことがある。


 俺は色んなことを思い浮かべながら、教会の扉を開いた。



「やけに人が多いな……」


 教会の中には兵士らしき人が数人おり、嬉しそうな顔で女神教の教典を食い入るように読んでいた。


 こんな山奥の教会にまで来るなんて、この兵士たちは暇なのか……それとも本当に布教が成功しすぎて信心深すぎる女神教徒になってしまったのか。


 俺はそんな兵士たちを横目に、教会の奥の方へ歩く。


 すると、いつものように教会の奥の方で眠っているネルを見つけた。


「あれ? 使徒様の匂いが…………あ、本当に使徒様が目の前に……」


 俺が目の前に来た瞬間、ネルは目が覚めた。


 最初に会った時も、ネルはすぐ目を覚ました気がする。


 本当に寝てるのか? こいつ。


「おお、使徒様。やっとお会い出来ましたね!」


 ネルは涎を修道服の袖で拭うと、いつもの雰囲気で話し始めた。


「女神教は順調なのか? 変な問題は起きてないよな?」


 俺は内心焦りつつ、ネルにそう尋ねた。


「そうですね。大した問題は今のところは起きていません。アレクシス様のおかげで、女神教のことは聖教会に伝わっていませんし」


 聖教会にこのことはバレてないのか?


 アレクシスの情報統制のおかげなのだろうが、それでも想像しえなかった結果だ。


 聖教会とアレクシスの関係が悪化することは想定内だったが故に、これは嬉しい報告だった。


「あ、そうだ。忘れてました。アレクシス様が使徒様に会いたいとしきりに言ってましたよ。会ってみてはいかがですか?」


「え? アレクシス……?」


 俺はアレクシスという名を聞くと、後ろめたい気分になってしまう。


 アレクシスに会わなきゃダメなのか……?


 俺のことを知ってるみたいだし、ボロが出そうだから出来るだけ会いたくないんだが。


「アレクシス様と関係を持っておけば、いざ挙兵するとなった時に兵を貸してくれるかもしれませんよ?」


 すると、ネルはあまり理解のできないメリットを提示してくる。


 そのメリットはよく分からないが、アレクシスと関係を保つメリットは理解できる。


 やはり、アレクシスとは親密な関係を維持するべきだろう。


「まぁ……行くしかないか……」


 俺は覚悟を決め、アレクシスに会いに行くことにした。

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