第17話 事後処理

「使徒様! どれだけポイントが集まったか見ませんか!? ふふっ、どれだけ増えてるか凄く楽しみです!」


 俺が女神教の教典を眺めていると、すぐ隣から待ちきれないといった表情のネルがそう言い出した。


 確かに……どれだけ信者が集まったか確認しておかないとな。


 俺はどこからか取り出した石盤をネルに見せる。


「うーん……増えたのは4000ちょっとですかね。まぁ予想以上ではありますが、期待以上とまでは言えませんね……」


 石盤には7038Ptとデカデカと表示してあった。


 その数値を見て、ネルは微妙な反応を示した。


 リヴィアのステータス強化に必要なのは6666Ptだから……。


 まぁギリギリ、リヴィアのステータス強化ができる数値だな。


 俺としては十分すぎるほどの成果だ。


 増えた信者数の他にも、やはり帝国軍に恐れられたことがこの高ポイント獲得に繋がったのだろう。


 あの災獣には感謝しないとダメだな。


「まぁなんにせよ、これでリヴィアを成長させられるな……」


 俺は石盤を見つめながら、そう呟いた。



「───貴方は!! 貴方が女神様が使わせた使徒様であらせられる方ですか!?」


 すると、俺の背後から妙にかしこまった口調をした男の声が聞こえてくる。


 振り返ると、そこには身分の高そうな軍服に身を纏った壮年の男がいた。


 服装を見るに王国軍の指揮官だろうか?


「こ、この人は……? 多分偉い人だよな?」


「ああ、この人は辺境伯のアレクシス様ですよ。使徒様のお力を目の前に、改宗を決意された立派な邪神教徒……じゃなくて女神教徒でいらっしゃいます」


 俺がネルにそう小声で尋ねると、ネルはそう答えた。


 辺境伯アレクシスはここら辺を治める王国屈指の大領主だ。


 そんな大物を改宗させられたのか……。


 俺はネルの手腕に内心驚きながらも、目の前のアレクシスを見つめる。


「ゴホン……。そうだ。俺は女神様の使徒だ」


 俺は女神教の使徒を演じるため、できるだけ舐められないように高圧的な態度を見せる。


「あ、あれっ!? あ、貴方は! 貴方はスタンリー家の……! こんな場所に……どうして……?」


 アレクシスは俺の顔を見ると、パクパクと口を動かしたまま固まってしまった。


 あ……普通にバレてた。


 俺はアレクシスの反応を見て、完全に失敗したと悟ってしまう。


「貴方はスタンリー家のキース様ですよね? 王都の……」


 俺の顔を見つめながら、アレクシスは小さくそう言った。


 やばい。


 運良く貴族の家に生まれたことが裏目に出てしまった。


 そこそこ名家の生まれであることが、ここでデメリットになるなんてあるのかよ。


「い、いやっ! そ、それは……だな……」


 俺はアレクシスの追求に、ただ焦ることしかできなかった。


 まずいな。


 正体がバレてしまえば、女神教の使徒という設定を疑われてしまうかもしれない。


 ここは何とか言い訳して誤魔化さなくては……。


「……キース様! 何と素晴らしいことですか!」


 アレクシスは恍惚とした表情を浮かべながら、そう叫んだ。


「……え?」


 俺はアレクシスの反応に唖然と短く声を漏らしてしまう。


「キース様が失踪されてから何処へ行ってしまったのかと嘆いていましたが、使徒にまでなられたのですね! これほどまでにキース様が素晴らしい人間になられているとは思いませんでした!」


 アレクシスは俺の手をガッチリと握り締め、そう言い放った。


 あ、ああ……なんかめちゃくちゃポジティブに解釈されているようだ。


 というか、この人女神教に毒されすぎだろ……。


 つい数時間前まで、アレクシスは聖教徒じゃなかったのか……?


「は、はははは……そ、そうだな……」


 俺は困惑しながらも、アレクシスの手を握り返して何とか笑顔を取り繕った。


「へー、使徒様って貴族だったんですね。なるほどなるほど……」


 すると、隣で俺とアレクシスの様子を見ていたネルが、急にそう言った。


「お、おい、なんだその顔……悪いこと考えてるだろ……」


 俺はそのネルのニヤニヤとした顔を見ながら、嫌な予感を覚える。


「その時が来れば、使徒様は内から王国を滅ぼせるということですね。これは1000年の悲願もそう遠くはないのかもしれません」


 ネルは嬉しそうな表情でそう言った。


「い、いや……そんなことしないから。あくまでも信仰ポイントのためにお前に力を貸してるだけだからな……?」


 俺はネルの戯言をキッパリと切り捨てる。


 アレクシスを女神教に改宗させたのも、王国軍を助けたのも、全部リヴィアの成長のためだ。


 そうだ。俺は邪教徒なんかに手を貸すつもりは一切ない。


「まぁとにかく、これで俺の仕事は終わりだな。もう帰っていいよな?」


 俺は未だに教典を配りたそうにしているネルに、そう言った。


「あー、はい。良いですよ。その代わり、一週間以内にもう一度だけ教会に来てくださいね。色々処理があると思いますから」


 ネルはそう言いながら、山積みの教典を両手一杯に拾い上げる。


 まだ布教するつもりなのか……?


 また変なことするかもしれないし、残るべきか?


 い、いや、まぁ大丈夫だろ。


 俺はそんなことを思いながら、帰路に着いた。

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