第14話 vs帝国軍
帝国軍はパルティア王国の驚異であり、主人公にとっても当面の間の敵となる存在だ。
帝国と王国の小競り合いは数百年規模で続いているが、ほとんどの期間において優勢なのは王国だった。
しかし、新しい皇帝が即位すると、急速に勢力を拡大するようになった。
その主な要因は、謎の生物兵器である『厄獣』と呼ばれる存在だ。
無制限に生成される災獣は戦場を暴れ回り、他国を蹂躙した。
王国も災獣の正体を全く掴めず、ただただ蹂躙されることしか出来なかった。
俺もゲームをプレイしたことが無いから、災獣の正体は分からなかった。
まぁなんか、帝国って名乗る国はだいたい悪い国だ。
多分、卑劣な人体実験とかして開発した生物兵器なのだろう。
まぁ、その災獣さえ注意すれば、帝国軍は王国軍より普通に弱い。
今回程度の規模の小競り合いであれば、俺一人の力で何とかできるはずだ。
これでも、生き残るために何十年と死ぬほど修行を重ねた身だ。
そこら辺の帝国軍に負けることはないはずだ。
俺はそんなことを思いながら、戦場を山の方から見下ろす。
王国軍と帝国軍の戦いは、平坦な荒野で勃発していた。
着いた頃には既に王国軍は、劣勢に立たされていた。
やっぱり、王国軍は帝国軍に苦戦しているようだ。
まぁこれも作戦通りではあるが、王国側としては少し不安な気持ちになってしまう。
「よし……行くか……」
俺は小さくそう呟くと、死ぬほど持ってきた長剣に手をかけ、山を降り始めた。
*******
ネルと話し合った作戦は単純なものだった。
王国軍が劣勢に立たされるまで傍観し、劣勢に立たされた途端助けに向かう。
そして、王国軍に感謝され、信者ゲット。
単純でありすぎるが故に、成功するかとても不安が残る作戦だった。
俺はゆっくりと息を潜め、戦場に近づく。
戦場では、やはり災獣が暴れ回っており、王国兵を大いに苦しめていた。
もはや、帝国軍の兵士は災獣を飼い慣らす役目しか担っておらず、帝国兵の大半は戦闘に参加していなかった。
これは……負けても仕方ないな。
帝国側は生物兵器を暴れさせるだけで、敵を倒してくれるんだ。
こんな簡単な戦争はないだろう。
それにしてもあんなバケモノ、どうやって操っているんだよ……。
俺は深い溜息を吐きながらも、鞘から剣を抜く。
そして、帝国軍との距離をゆっくりと気づかれないように詰める。
「おお? 意外に……近くまで行けるな」
俺はゆっくりと歩きながら、そう小さく呟いた。
その次の瞬間だった。
「───ガルルルル!」
俺の目の前に災獣が現れてしまった。
「そいつも敵か……殺せ!」
目の前の災獣を操っているであろう帝国兵が、遠くから災獣にそう命じた。
すると、災獣は涎を撒き散らしながら俺に勢いよく襲いかかった。
俺は完璧に災獣の動きを見切り、災獣を切り裂いた。
災獣は四肢を失い、その場で塵となって消滅した。
まるで、この世界に元々いなかったかのように、災獣はどこかへ消えてしまった。
「────お、おい! 一体やられた!! 援護を!!」
すると、災獣を操っていた帝国兵が、目を見開きながらそう叫んだ。
俺は間髪入れず、その帝国兵を剣で薙ぎ払った。
「な、なんだ!? コイツ!! 災獣を倒したぞ!?」
次の瞬間、周りの帝国兵達は、災獣と仲間の兵士がやられたことを把握した。
帝国兵は、災獣が倒されるという異常事態に慣れていないようで酷く混乱していた。
ああ、やっぱり帝国軍は災獣抜きでは王国軍に遥かに劣るようだ。
俺はそう思いつつも、帝国軍を撹拌するために距離を詰める。
「だ、誰か! 援護を!」
すると、一人の兵士が咄嗟に大声を上げ、ずっと向こうの本陣の方を見つめる。
次の瞬間、俺の目の前にクソでかい災獣が現れ、本陣への道を遮るように立ちはだかった。
明らかに、この災獣はさっきのヤツとは違った。
大きさも、魔力も、全てが脅威だと俺の頭に鳴り響いた。
「───ガルルルルルゥゥゥゥゥウウ!!」
低く響く唸り声を上げながら、目の前の災獣は俺を睨みつける。
意外につぶらな瞳をしている災獣を見つめながら、俺は首筋から汗を流す。
やばい。これ勝てるか……?
こいつ……クソ強くないか?
こんな強い災獣がポンポン出てくるのか?
俺はそこそこ強くて、序盤の帝国軍なら無双できる自信あったたんだけど……。
俺は目の前の災獣の気迫に当てられ、ジリジリと後ずさる。
「ガルルルル………ガル………」
俺が気迫に押され、動けないでいると、急に目の前の災獣は唸り声を出すのを止めた。
さっきまでの殺気が消え、目の前の災獣から殺気も魔力も敵意も、何もかも感じなくなってしまう。
え……?
どういうことだ……?
俺は固唾を飲み込み、目の前の災獣を見守る。
「……クゥーン」
すると、目の前の災獣は情けない鳴き声を出しながら、その場で足を畳み、お座りしてしまった。
「…………え?」
目の前の状況を理解できず、俺は短い声を出してしまう。
俺の身長の数倍はあろうかという災獣が、俺を前にして飼い犬のようにお座りを繰り出した。
「な、なんなんだ!? 制御が効かないぞ!?」
すると、災獣の奥の方から帝国兵の声が聞こえてくる。
その帝国兵は怪しげな装置を手に携え、それを必死にガチャガチャと弄っていた。
なるほど……アレでこの災獣を制御しているのか……。
そして、何故か急にその制御が効かなくなったということか。
理由は分からないけど、俺にとって有利な展開なのは間違いなかった。
俺は不意に自分の右手を見てみる。
そこには紫色の紋章がぼんやりと光っていた。
あれ、これって光るのか……。
そう言えば、ネルはこれを見ながら俺を邪神の使徒だとか主張してたな……。
この紫色の紋章には何かしらの力があるのかもしれない。
俺は紋章が刻んである右手を大きく前に出し、後ろにいる帝国兵に指さした。
「えー、後ろのあれ、全部倒してこい」
俺はどうとでもなれと、目の前の災獣にそう命令した。
「ワン!」
すると、災獣は嬉しそうな鳴き声を上げると、一目散に後ろの帝国軍の方へ突撃して行った。
「……え?」
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