第13話 帰宅
あの後、俺はネルに対する猜疑心を持ったままに、数日後の戦いについて計画を練った。
教会を出た頃には、既に空は暗く沈んでいた。
そんな空模様を見ながら、俺は焦りを覚える。
「あ……もうこんな時間か……まずいな……」
リヴィアと出会ってからこんな長い時間、リヴィアと離れていたことは無かったな。
リヴィアは大丈夫かな。
俺は真っ暗な森林を見つめながら、リヴィアのことが心配になってくる。
「今日はもう帰られるんですか? ふふっ、もう遅いので、ここに泊まってもいいんですよ?」
すると、ネルは教会の扉から小さく顔を出して、ニヤニヤと笑う。
「泊まるわけないだろ!」
俺はネルにそう告げて、小さく開いた教会の扉を手で閉めた。
*******
数時間をかけて、やっと俺はリヴィアのいる山小屋に辿り着いた。
山小屋の扉をそっと開くと、すぐ扉の目の前には俯いたままのリヴィアが立っていた。
「え……? リヴィア? ど、どうしたんだ……?」
目の前に立ち尽くすリヴィアを見て、俺はビックリしてしまう。
もしかして、ここにずっと立っていたのか?
俺はリヴィアの奇行に激しく動揺してしまう。
「……遅かったですね。キースさん」
「あ、ああ……信仰ポイントを増やすために色々してきたから……」
俺はそんなリヴィアを前に、言い訳をするかのように口を動かす。
リヴィアを前にして、俺は変な汗をかいてしまっていた。
「……いいんですよ。ただ、もう少し早く帰ってきてくれたら嬉しいなと思っただけです。キースさんが私のために色々してくれてるのは分かってます。でも、私だってキースさんのことが心配なんです……。ごめんなさい、こんな面倒臭い女キースさんは嫌いですよね? これからは我慢します。仕方ない話なので────」
リヴィアは早口で、ブツブツと呪いのように言葉を発し続ける。
リヴィアの表情はどこか狂気を帯び、何かに突き動かされるように口が動き続けていた。
リヴィアの様子に、俺は酷く動揺してしまう。
リヴィアが、いつものリヴィアじゃないみたいだった。
まるで、誰かに身体を乗っ取られているかのような……。
「り、リヴィア……? 大丈夫か……?」
俺はそんな様子のおかしなリヴィアの両肩を掴む。
「ッ! あっ、す、すみません!! す、少し……感情が抑えられなくて……」
すると、リヴィアはハッと目を覚ましたかのように目を見開いた。
「ごめん。俺が悪かった。これからは早めに帰るようにするから……」
「い、いえいえ! 私がわがまま言ってるだけで、キースさんは何も悪くないです……」
俺が頭を下げて謝ると、急にリヴィアはあわあわと慌て始めた。
「ありがとう……」
俺はリヴィアの優しさに感動し、涙が溢れそうになる。
俺が遅くに帰ってきて、リヴィアの期待を裏切ったというのに。
それを責めもせず、許してくれるなんてリヴィアはなんて優しい心の持ち主なんだろうか。
*******
リヴィアの様子が正常に戻り、ようやくいつもの生活が戻ってきた。
そんな所で、俺はネルとの計画をリヴィアに話した。
帝国軍と王国軍との戦いに介入すること。
そこで、信仰ポイントを集めること。
そのことをリヴィアに話した。
「そうですか……。キースさんは……帝国軍と戦うんですね……」
やはりと言うべきか、リヴィアの反応は芳しくなかった。
リヴィアにとって、帝国軍はトラウマであり、会いたくもない存在だろう。
そんな帝国軍と戦うというのは、リヴィアにとっても喜ばしいことではなかった。
「でも、信仰ポイントを増やすためには……帝国軍と戦わなきゃダメなんですよね……」
リヴィアは俯いたまま、そう呟いた。
「ああ……リヴィアを強くする方法はこれ以外思いつかない……」
俺もそんなリヴィアに釣られて、目を伏せたままにそう呟いた。
ネルと話し合った結果、やはり信仰ポイントを増やす方法はそれ以外思いつかなかった。
リヴィアを強くするため、俺はその方法を遂行するしかなかった。
リヴィアと俺の間に、悲しくも気まずい空気が流れる。
「……ごめん。でも、リヴィアには強くなってもらわないと困るから」
俺は沈黙を破り、リヴィアの手を取った。
そのリヴィアの小さな手は、やがて世界を救うはずだ。
リヴィアさえ強くなれば、世界中の人間が救われるはずなんだ。
「分かりました。でも、絶対帰ってきてくださいね? 帰って来なかったら、一緒に新しい世界を作れませんから……」
リヴィアは俺の手を握り返し、唐突に不思議なことを言い出した。
え? な、なに? 新しい世界を……なんて?
いや……普通に聞き間違えだよな?
リヴィアがそんなよく分からないことを言う訳ないよな。
リヴィアは優しくして、気配りもできる主人公だ。
あの狂気的破壊信者のシスターじゃあるまいし……。
俺は違和感を覚えながらも、リヴィアの言葉に小さく頷いた。
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