第12話 作戦
この金髪シスターの言う通り、邪神教徒の信者が増えない理由は明らかにその教義にある。
世界滅亡や破壊活動が主な教義の時点で、信者が増えるはずもない。
それならば、その教義を偽れば良い。
それは確かに合理的だった。
しかし、王国に住むほとんどの人々は聖教徒だ。
そこから、邪神教徒になると言うのは、よっぽどの事が起きない限りありえない。
「ふっふっふ、使徒様は信者になってから日が浅いと見えます。信者を増やしたいのであれば、その道のプロである私にお任せ下さい」
すると、金髪シスターは自慢げな表情で、ニヤリと笑った。
その道のプロって、俺はこの子以外の邪神教徒を見たこと無いけど……。
それに、俺は邪神教徒じゃないし。
俺は自慢げな金髪シスターの顔に、疑いの目を向ける。
「何をするんだ? 何か考えがあるのか?」
「ふっふっ、知っていますか? ここは忌まわしきあの王国の辺境です。そんなこの場所に数日後、帝国軍が攻め込んできます」
金髪シスターは笑み浮かべながらそう語り始めた。
金髪シスターの言う通り、帝国軍は日に日に膨張し、王国の領土を飲み込んでいる。
リヴィアを見つけ出した時も、王国軍と帝国軍が争った戦場だった。
少なくとも、帝国領が近いこの場所において、帝国軍が攻めてくるというのは珍しい話ではなかった。
むしろ、自然な話だった。
王国軍と帝国軍の戦争。
それが信者を増やすことに、何の関係があるのだろうか。
「その戦場を、私と使徒様、2人で荒らし回りましょう! そして、助かりたければ、入信せよと脅迫するのです! そうすれば、その場にいる兵士たちは丸々信徒にできます!」
金髪シスターは渾身のドヤ顔で、とんでもないことを言い放った。
いやいやいや……二人で荒らし回って脅迫するとか……そんな悪役みたいなことしたらダメだろ。
いや、俺たちは邪神教徒なんだから、世間一般で見たら悪役なのか。
いやいや、それでも、それはダメだろ。
「いや、それはダメだな……」
この子の提案は却下だ。
他の方法を探さないと……。
いや待てよ。
この子の言うことが本当ならば、数日後に帝国軍がここを攻めてくる。
そこで、俺が王国軍の味方として帝国軍を撃退すれば……。
そうすれば、王国軍側の支持を集められるかもしれない。
金髪シスターの提案とは違うが、それより確実で合理的だ。
*******
「えー? それって、帝国軍しか相手にしないってことですか……? 王国軍は襲っちゃダメってことですよね……」
俺が思いついた計画の話をすると、金髪シスターは見るからに萎え始めてしまった。
「当たり前だろ。そもそも全員潰して脅迫するより、片方を助けた方が合理的だろ」
「まぁ……そうですかね……まぁ、使徒様が言うなら、私はそれに従うしかありません……」
金髪シスターは不満そうな表情ながらも、何とか納得して小さく頷いた。
「なんで不満げなんだよ……」
金髪シスターはリヴィアと同じくらいの年頃の少女のはずだ。
それなのに、どうしてこんなに恐ろしい思想を持っているんだ?
幼い少女の見た目なのに、中身は破壊大好きバーサーカー狂信者。
本当にこの子は何者なのだろうか。
「まぁなんにせよ、私と使徒様は共闘するということですね! それは楽しみです!」
金髪シスターは表情をガラリと変えて、嬉しそうな顔でそう言った。
そうだな。俺は一時的にとは言え、この邪教のシスターと共闘しなければならない。
「あ、そう言えば、俺はお前をどう呼べばいいんだ?」
あやふやな呼び方だと、戦闘中に支障が出てくるかもしれない。
俺はそう思い、金髪シスターに名前を尋ねた。
「あー、私ですか? 私の名前はネルヴィアです。気軽にネルと呼んでくださいね」
金髪シスターは笑顔を崩さないまま、自分のことをネルヴィアと名乗った。
ネルヴィア……?
その名前には聞き覚えがあった。
1000年前の邪神教徒ネルヴィア。
1000年前、ネルヴィアは邪神教を裏切り、聖教の勝利の要因を作った邪神教徒。
いや、偶然同じ名前なだけかもしれない。
しかし、この子はだいぶ昔の話を何度もしていた気がする。
まるで、ずっと昔から生きているみたいに……。
「ネルヴィアって、あの裏切り者の……?」
俺はネルヴィアと名乗った少女の横顔を見つめる。
ネルの横顔は俺の疑惑を裏付けるかのように、どこか冷たくて、どこか歪んでいるような……。
「やっと気づいたんですね使徒様。ふふっ、私が怖いですか? ふふっ、二回も私に裏切られたくありませんよね……?」
ネルヴィアと名乗った少女は、自然な手つきで俺の手を掴んだ。
その瞬間、俺の手からゾッとするほど冷たい感触が伝わってくる。
まるで、死人のような冷たさの少女の手に、ゾッとするような悪寒が背中を走った。
「い、いや……それは……」
少女の悪戯なような蔑むような笑みを見つめながら、俺は言葉を詰まらせてしまう。
「……ふふっ、冗談ですよ。私はずっと、使徒様とリヴィア様の味方ですよ」
少女は濁った瞳で、俺のことを見つめる。
その瞳は吸い込まれそうなほど深くて暗くて、どうしようもないほど濁っていた。
俺はこの女のことを全く理解していなかったようだ。
「……俺は別にお前が裏切り者だろうと、どうでもいい。ただ信仰ポイントさえ手に入れらればいい」
俺は何とか口を動かし、焦りを誤魔化した。
しかし、未だに俺の脳裏には、少女の吸い込まれそうなほどの瞳が焼き付いていた。
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