第10話 リヴィアの強化

「──世界滅ぼしたくなったら、また来てくださいね!」


 謎の石版と食料を受け取り、俺は教会を後にした。


 去り際、とんでもないことを言われた気がするが、俺は聞かなかったことにした。



 まぁ、なんにせよ、これで食料問題は解決だ。


 確か食料は100Ptしか使わないはずだ。


 石盤に映る数字を見る限り、信仰ポイントの残りは9900Ptだ。


 つまり、少なくともこの量の食料を99回は生み出せる訳だ。


 当面、リヴィアを一人にしてまで人里に降りる必要は無さそうだ。





 *****





「おかえりなさい! 随分早かったですね!」


 山小屋の中に入ると、すぐに嬉しそうなリヴィアの顔が飛び込んできた。


 めちゃくちゃかわいい。


 最初に会った時より、何故か数倍増しで可愛く見える気がする。


「ただいま。一応、食料は手に入ったんだけど……」


 俺は一応金髪シスターに貰っておいた謎の石盤を見つめる。


「あれ? これって……何ですか?」


 すると、リヴィアは背伸びして、謎の石盤を覗き込んでくる。


 リヴィアの身体が近づき、謎の良い匂いが鼻腔を充満する。


 俺の心臓はドクンと跳ねて、何故か緊張してしまう。


 な、なんだ……?


 リヴィアは一回り年下の女の子だぞ?


 どうして、緊張してるんだ?


 俺は自分へ違和感を覚えつつも、石盤をリヴィアに見やすいようにテーブルに置いた。


「これは……なんと言うか、信仰ポイントってヤツを使って、色んな物と引き換えれる便利道具らしい」


 俺は謎の石盤のことを噛み砕いて、そう説明した。


 まぁ、説明するより実際して見せるのが一番だろう。


 俺は石盤を弄りながら、食料をもう一回出してみようとする。


「ん……? なんだこれ」


 石盤に浮かび上がったボタンを触ると、不意に変なボタンが目に入った。


「邪神……強化……?」


 そのボタンには邪神強化と赤文字で記されていた。


 他の食料や武器などの項目とは違い、邪神強化は分かりやすい赤文字で目立たせてあった。


 俺はその赤文字につられ、ボタンをタップする。


「な、なんだ……?」


 すると、タブレットの目の前に謎の文字列が出現した。



 ────────────────────────



 リヴィア


 LV.6 (強化可能)


 年齢 15 (強化可能)


 魔法 35 (強化可能)


 身体 7 (強化可能)


 魅力 30 (強化可能)


 信者 15


 残虐 500 (強化可能)


 独占 9999



 ──────────────────────



 その文字列にはリヴィアという名前と共に、そのステータスが下にずらりと並んでいた。


 ど、どうして、邪神強化というボタンを押したら、リヴィアのステータスが出てきたんだ!?


 俺は目の前で起こった出来事に、強烈な違和感を覚える。


「り、リヴィア……?」


 俺は無意識に、隣に立っているリヴィアの方を見てしまう。


 リヴィアは無表情で、光り輝く石盤をじっと見つめていた。


 その顔は凍えるほどの無表情で、さっきまで笑顔を振りまいていたリヴィアの面影はなかった。


「これ、私のことですよね? もしかしたら、その信仰ポイントを使えば私を強化できるのかもしれません」


 リヴィアはそう言って、謎の石盤を操作し始める。


 初見にしては速すぎる捌き方で、リヴィアは石盤を操作していた。


 まるで、最初からこの石盤の操作方法を知っていたかのような手つきに、俺は面食らってしまう。


「私のステータスを上げるためには、凄いたくさんのポイントが必要みたいですね。今はどれかのステータスを1個だけ上げれるみたいですね」


 リヴィアはそう言うと、俺に石盤の画面を見せた。


 そこには『ステータス1種上昇:必要6666Pt』と表示されていた。


「キースさん。どうしますか? 私のステータス、どこを上げますか?」


 すると、リヴィアは俺に顔を近づけ、そう言った。


 リヴィアは選択肢を残さず、その判断のみを俺に委ねた。


 リヴィアの琥珀色の瞳が眼前に迫り、俺はゴクリと息を飲んでしまう。


 どうしてだろうか。リヴィアの目を見ると、少し緊張してしまう。


 そのせいか、リヴィアの言葉に無意識に従ってしまった。


「そ、そうだな……。リヴィアのステータスが上げれるなら、年齢が一番だと思う。いち早くリヴィアには大人になってもらわないと困るからな」


 基本的に主人公は18歳まで生きられずに、死んでしまう。


 その結果を避けるためには、年齢を上げて、リヴィアの成長を安定軌道に載せるのが一番だろう。


 そもそも年齢を強化ってよく分からないけど……。


「そうですね。私も年齢が一番いいと思います。できるだけ早く強くなる為には、一番の近道ですね」


 リヴィアはそう頷くと、石盤を触り、年齢の強化ボタンを押した。


 石版が妖しく輝き、『強化完了』とソシャゲの演出みたいな文字が表示された。


 これでリヴィアの年齢が強化されたのだろうか?


 てか年齢を強化って何だよ……。



「───キースさん! 見てください! ほら! 大きくなりましたよ!」


 そんなことを考えていると、リヴィアは嬉しそうな弾んだ声を上げた。


 リヴィアの方に目を向けると、そこには……少しだけ成長した気がするリヴィアがいた。


 身長はちょっとだけ伸びてる……気がする。


 それ以外はあんまり変わらない……か?


 年齢強化と言えど、そこまで驚異的な成長をする訳じゃないのか。


 まぁでも、リヴィアは喜んでるし、少なからず効果はあるみたいだ。


「ほら、触ってみてください! キースさん!」


 すると、リヴィアは無邪気な笑顔で胸に俺の手を近づけた。


 柔らかい弾力のある感触が手を伝い、それと同時に罪悪感が頭を埋め尽くす。


 俺は反射的に手を離す。


「ふふっ、もっとゆっくり触っても良いんですよ?」


「い、いや、触らないから……」


 俺は内心焦りながら、悪戯な笑みを浮かべるリヴィアを睨んだ。


「あ、見てください。ステータスも結構上がってますよ」


 石盤に映し出されているリヴィアのステータスを見てみると、確かにステータスは軒並み上昇していた。


 いくつかの項目は変わらないものもあったが、基本的には殆どの項目で、その数値がほぼ倍増していた。


 一番基本的なステータスであるレベルは特に顕著で、6から20にまで急増していた。


 これは……予想以上だ。


 年齢を強化するだけで、これだけのステータスが上昇するのか。


 俺は異様なステータス上昇に唖然としてしまう。



「あ……でもポイント無くなっちゃいましたね」


 リヴィアは石盤に信仰ポイントの残数を画面に映し出し、そう呟いた。


 信仰ポイントは9900から3000ちょっとに減少していた。


 さっきのステータス強化は6666Pt必要だから、もう使えないみたいだ。


 どうしても、使うとしたら信仰ポイントがもっと必要だ。


 信仰ポイントさえあれば、リヴィアを急速に成長させられる。


 そのことは何事よりも優先すべき事のはずだ。



 確か、あのシスターは信仰ポイントを増やせるって言ってたよな……。

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