第9話 邪神の力

「ふふっ、存分に期待していいですよ! 邪神グレイデア様の力を使えば、どんなものだって作り出すことができるんですよ!」


 妖しく光り続ける大釜を背後に、金髪シスターは自信満々に小さな胸をポンっと叩いた。


 本当に期待していいのか?


 この子はどうしてもポンコツ臭というか、大事なところで失敗する感じがするんだけど。


 俺は目の前の金髪シスターの言うことに、懐疑的な感情を拭えなかった。


「ほら! 来ますよ!!」


 すると、金髪シスターが大釜の方を見ながらそう叫んだ。


 大釜は今にもクライマックスって感じの光を発し続け、周りの瘴気もどんどん大釜に集まっていった。


 お、おおお、何が……起こるんだ?


 俺は少しの期待をしながらその様子を見守る。


「お、おお……? な、なにが……?」


 徐々に大釜の発光は収まり、集まっていた瘴気も霧散していく。


 すると、そんな大釜に手を突っ込み、金髪シスターは何かを引っ張り上げる。


「────見てください! できました!!」


 金髪シスターは満面の笑みを咲かせながら、どこからか出てきた木製の籠を俺に堂々と見せつけた。


 その籠には、肉や野菜、パンなどが収まっていた。


「ほ、本当に……何も無いところから……食料が……?」


 俺は目の前で起こった異常事態に、驚きを隠せなかった。


 さっきまで大釜の中には、紫色のヤバそうな液体だけで、こんな新鮮で美味しそうな食料はなかったはずだ。


「これで信じる気になりましたか? この神器は邪神グレイデア様の万能の力を使えるものなんですよ! そして、千年もの間使えなかった、この大釜を活性化させたのはあなたなのです! あなたは間違いなく、邪神グレイデア様の使徒なのです!」


 驚く俺をニヤニヤと見つめながら、金髪シスターは自慢げなドヤ顔を見せた。


 確かに……これを見せられれば、この子の話を信じてしまうかもしれない。


 この子の話を全て鵜呑みにするなら、この教会は邪神グレイデアを信仰する教会で、俺はその邪神グレイデアの使徒ということになる。


 い、いやいやいや、俺が邪神グレイデアの使徒? ありえない。


 そもそも、俺が邪神グレイデアの使徒になった覚えなんて…………。


 本当に……ないか?


 唐突に、今日の朝の記憶が俺の脳裏を過ぎる。


 リヴィアと手を繋いだ場所に出た紫色の紋章。


 そして、リヴィアの作り出した禍々しい守護騎士。


 もしかして、邪神グレイデアって……リヴィアなのか?


 い、いや……そんなはずはない。


 リヴィアは優しくて天使みたいな性格をしているし、あんな幼い少女が邪神グレイデアなんてありえない。


 そうだ。そんなことは絶対にありえない……。


 俺はブンブンと頭を横に振り、嫌な思考を掻き消した。


「いや、俺は邪神の使徒なんかじゃない。そうだ。絶対違う……そのはずなんだ……」


 俺は独り言のように、自分に言い聞かせるように、金髪シスターにそう言った。


「そうですか……」


 すると、金髪シスターは顔を俯かせたまま小さくそう呟いた。


 微妙に気まずい空気が、俺と金髪シスターの間を流れる。



「……そうだ。これだけ持って行ってください。あなたが使徒であることを信じなくとも、これだけはあなたに持っていて欲しいです」


 金髪シスターはそんか重い沈黙を破り、俺の方へ謎の石盤を渡してくる。


 顔の大きさほどの石版には、教会内で何度も見た紫色の紋章が刻まれいた。


 石盤に触れると、さっきの大釜のように石盤は妖しく発光し、謎の文字が浮かび上がってきた。


「これは……?」


 謎の石版には、デカデカと『信仰ポイント:9900』と記されていてた。


 おお、なんだこれ。


 この世界にもスマホというか、タブレット的なものがあるのか。


 俺は目の前に差し出された石盤を見て、そう感心してしまう。


「今表示されているのが信仰ポイントの残数ですね。こっちの模様を触れば、信仰ポイントで引き換えられる物が表示されます」


 金髪シスターは俺の持つ石盤を慣れた手つきで弄りながら、そう説明した。


 石盤には、『食料:100Pt』とか『剣:300Pt』とか、必要なポイントと引き換えられる物の名前が書かれていた。


「このリストの中から引き換えたいものを選ぶと、さっきみたいに目の前にその物が現れます」


 え? このリスト全部、引き換えれるのか?


 それはすごいな。


 食料もあれば、剣もあるし、なんなら回復ポーションまであるじゃないか。


「……まぁ、これは便利そうだな」


 俺は石盤に映し出された文字を眺めながら、小さくそう呟いた。


「ん? そう言えば、この信仰ポイントってヤツはどうやって増やすんだ?」


 俺はあまりに便利すぎることに気を取られ、肝心なことを忘れていた。


 今表示されているポイントは9900だ。


 これを使い切ってしまったら、この石盤はただのお荷物になってしまう。


 これを増やせないと、あまり意味が無い気がするが……。


「信仰ポイントはですね……村を焼き払ったり、占領した街を略奪することで増やせますよ!」


 金髪シスターは満面の笑みで、とんでもないことを教えてくれた。


「は、はははは……も、もっと、マシな方法は無いのかなぁ?」


 俺は苦笑いで動揺を誤魔化しながら、そう尋ねた。


 どうしてこうも、この金髪シスターは村を焼き払ったり、略奪行為をしたがるんだよ。


「そうですね……。簡単な方法だと敵をぶっ殺したり、敵に恐れられたりすると増えますね」


 金髪シスターから帰ってきた返答は、まぁ予想通りというか、俺の想像していた系統だった。


 まぁでも、使えなくはないな。


 これから俺は何人もの敵をぶっ殺すし、敵にも恐れられるだろう。


 ……貰っておくだけ貰っておくか。

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