第7話 あやしい教会

 心苦しくも、俺はリヴィアを家に置いて山小屋から離れた。


 とりあえず、最低一週間分の食料は欲しいな。


 俺はそんなことを考えながら、山道を下っていた。



「…………ん? あれ?」


 山道を歩いていると、山の奥の方に変な建物があるのが見えた。


 あれ? こんな所に建物ってあったか?


 俺は不思議に思ってしまい、その建物に近づく。


 もしかしたら、人がここに住んでいるのかもしれない。


 金だけは腐るほどあるから、交渉次第で食料調達問題が解決するかもしれない。


 俺は淡い期待を抱き、建物の方へ歩き始めた。



 近づいてみると、変な形をしている目の前の建物は教会だと分かった


 教会と言っても、見たことのない変な形をしている。


 パルティア王国の国教である聖教会ではなさそうだ。


 いや、待てよ。


 パルティア王国なのに、聖教会じゃない……?


 俺はそのことに強烈な違和感を覚えた。



「おーい! 誰かいないか? ちょっと困っているんだが……」


 俺は教会の前に近づくと、扉の前で大きな声を出してみる。


 しかし、教会内からは返事もなければ物音すらしなかった。


 誰もいないのか……?


 まぁ、こんな山奥のボロい教会に人がいる方がおかしいか。


 俺は薄々諦めながらも、ダメ元で教会の扉を開いてみる。



 中は想像の通りボロボロで、蜘蛛の巣とホコリのオンパレードだった。


 まぁ、絵に書いたような山奥の廃墟って感じだな。


 俺はそのまま諦めて、教会の外に出ようとした。


「…………ん?」


 その瞬間だった。


 不意に教会の奥の方へ視線が移った。


 そこには、人影……?


「あれ……?」


 よくよく奥の方を見ると、そこには修道女らしき少女が倒れていた。


 ん……? こんな所でどうして倒れてるんだ?


 俺は不思議がりながらも、奥の方へゆっくりと歩いていく。


「ん? 寝てるのか?」


 修道服を来た金髪の少女は、胸を上下させながら寝息を立てていた。


 なんだ……このシスター……。


 金髪少女の着ている修道服を見るに、この子は聖教会のシスターではない。


 彼女が着ているのは黒を基調とした修道服で、服の端々には禍々しい刺繍のデザインが施されていた。


 どこの教会なんだろう?


 帝国には、そういう宗教があるのか?


 まぁ、ここって王国の中でも辺境中の辺境だし、帝国も近いし。


 変な宗教があっても不思議じゃないか……?


「ん? むにゃ……? ん? あ、あれ? え”っ!? あ、あなた!?」


 すると、そうこうしている内に、目の前の金髪のシスターが目を覚ましてしまった。


 何故かシスターは俺のことを見ると、めちゃくちゃ困惑し始めた。


「ごめん。寝てたから……」


「ま、ま、ま、まさかっ!! 入信希望ですか!? ふふっ、あなたは非常にお目が高いようです!!」


 俺がそう状況を説明しようと口を開くと、金髪のシスターは急に俺の両手をがっちり握り締め、嬉しそうな顔でそう言った。


「い、いや、俺は入信希望じゃないから……。ただ、人がいないか確かめただけだ」


「え? 入信希望じゃない……? そ、そうなんですか……? 久しぶりに入信希望の人が来たと思ったんですが……」


 俺がそうキッパリ否定すると、金髪シスターは目に見えて落ち込んでしまった。


 悪いことはしてないのに、何故か罪悪感がすごい。


 どこの宗教かは分からないけど、この子はきっと熱心な信徒なのだろう。


「まぁ、話くらいは聞いてもいいけど……」


 俺は罪悪感を払拭するため、金髪シスターにそう言った。


「ほ、本当ですかっ!? で、では、天地破壊の一章からいいですかっ!?」


 すると、金髪シスターはパァっと嬉しそうな顔になり、どこからか取り出した変な本を開き始めた。


 な、なんだ……あの本……。


 俺は金髪シスターが取り出した本の禍々しいデザインを見て驚いてしまう。


 なんだ? あの宗教に有るまじき禍々しいデザインは……。


 というか、そもそも天地破壊の一章ってなんだよ……。


 天地破壊から始まるのかよ。破壊から始まる宗教ってなんだよ。


「あー、待ってくれ。数分で終わる内容で頼む」


 俺はペラペラと話し出した金髪シスターに、右手を出してストップをかける。


「そ、そうですか? 数分ですか……」


 金髪シスターはまたしゅんと落ち込んでしまい、悲しそうな表情をする。


 いや、もう罪悪感は感じないぞ。


 数分聞いたら帰る。


 多分、本当に関わっちゃダメな人だから食料調達も頼まない。


 俺はそう心に決めた。



「……ん? あれ? え”っ!? え”!? ち、ちょっと、待ってください!?」


 すると、落ち込んだ顔の金髪シスターが、急に血相を変えて俺の右手を掴み、驚愕の声を上げた。


「え? な、なに? どうした?」


 俺は金髪シスターの豹変に、こっちまで驚いてしまう。


 な、なんだ? 俺の右手に何か着いてたのか?


 いや、この反応を見る限り、そんなレベルじゃないだろう。


 もっと、とんでもないものを見たような反応だ。


「…………こ、これは…………グレイデア様……?」


 金髪シスターは、俺の右手をじっと見つめたままブツブツと何かを呟いていた。


「そんな俺の右手が変なのか?」


 俺は金髪シスターの反応を不思議に思い、そう尋ねる。


「へ、変なんてもんじゃないですよ! あなたは邪神グレイデア様に選ばれた使徒じゃないですか!」


 すると、金髪シスターは大声を上げて、俺の右腕の紫色の刻印を指さした。


「え? 邪神グレイデア??」


 俺は金髪シスターの言葉に、耳を疑った。


 じ、邪神グレイデア?


 それって、確かこの世界のラスボスだよな?


 その事実に気づいた瞬間、嫌な汗が首を伝った。

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