第6話 守護騎士

 俺は幸運にも主人公であるリヴィアを拾うことができた。


 これから、リヴィアを育て、少なくともレベル50以上にしなければならない。


 まぁ、健気で真面目なリヴィアなら、ほぼ確実にその領域に達することはできるだろう。



 しかし、俺の目の前にはもっと根本的な問題があった。


「キースさん、考えごとですか……?」


 俺が少し悩んでいると、心配そうな顔をしたリヴィアがそう声をかけてくれた。


 あまりに優しいリヴィアの行動に、思わず涙が出そうになってしまう。


 しかし、そんなリヴィアの優しさだけは解決できないことが、この世界には少なくも存在する。



 それは食料問題だった。


 今俺とリヴィアがいる山小屋は、人里離れた場所にあり、食料を調達することは容易ではない。


 しかし、だからと言って、リヴィアを人里に連れ出してしまえば、懸念すべき点がある。


 それはここの山小屋の周辺が、帝国領に近いことである。



 ここら辺を跋扈している帝国兵にリヴィアが見つかってしまえば、どうなるかは火を見るより明らかだった。


 まぁ、その場合は俺が全力でリヴィアを守ればいいんだけど……。


 それでも、少なくないリスクを取ることは避けるべきだ。



「リヴィア。ここで一人で留守番はできるか?」


 俺はそのことを踏まえ、リヴィアにそう言った。


「え? 一人で……ですか? 多分、出来ると思いますけど……」


 すると、リヴィアは少し寂しそうな顔をしながらも、そう言って頷いてくれた。


 俺はそんな心細くも、強くあろうとするリヴィアに胸が打たれてしまう。


 い、いや、ダメだ。


 この子を一人にするなんてありえない。


 せめて、誰かを残していかないと……。


「リヴィアと一緒に留守番できる人がいればいいんだけど……」


 リヴィアを一人で置いていくことが、俺は急に心配になってしまう。


「あ、それなら、考えがあります!」


 すると、そんなリヴィアはポンと手を叩き、元気よくそう言った。


「え? リヴィア……まさか、何か解決策があるのか?」


 ま、まさか、リヴィアは優しいだけじゃなくて、頭も良いのか?


 俺は自信満々なリヴィアの表情を見て、期待が募る。


「はい! 任せてください!」


 リヴィアは可愛らしいドヤ顔で、胸をポンっと叩いた。





 ******




 数分後……。



「はい! 完成しました! どうですか?」


 リヴィアが自信満々な顔で、そう言って俺の反応を伺う。


「あ、ああ……これは……これは確かに……すごい……」


 俺は目の前の異様な光景を見て、絶句してしまう。


 俺の目の前には、剣と盾を構えた巨漢の怪物が鎮座していた。


「こ、これは……な、なんだ?」


 俺は震えそうな声を抑えながら、何とか笑顔を繕いリヴィアにそう尋ねる。


「これはですね、キースさんの髪の毛から作った私の守護騎士です!」


 え……? 俺の……髪の毛……?


 俺はリヴィアの発言に耳を疑ってしまう。


 俺の髪の毛から、こんな怪物を……リヴィアが作った……?


 というか、リヴィアってそんな能力持ってるんだっけ?


 い、いや、リヴィアは主人公で、そんな能力を持っていてもおかしくはない。


 ……お、おかしくないはずなんだけど。


 どう考えても、その能力は主人公というより、敵キャラ寄りというか……。


「あ、あれ……? もしかして……ダメでした?」


 俺がそんなことを考えていると、リヴィアが上目遣いで俺のことを心配そうに見つめていた。


 リヴィアの上目遣いは、まるで天使のような儚さと可愛らしさを持ち合わせていた。


 ここまでリヴィアの上目遣いの破壊力が高いとは、俺でも想像できなかった。


「いや! よく見たら、これかっこいいな。ちょっと禍々しいけど……いや、だいぶ禍々しいけど、よく見ればクールというか、そんな感じもするな」


 俺は目の前の怪物をよくよく観察し、褒め言葉を捻り出した。


 鎧を纏う漆黒の瘴気。それと、明らかに人を無惨にぶっ殺すことを想定した形状の剣。


 よくよく見てみれば、かっこいいかもしれない。


 というか、これはリヴィアが作った図画工作みたいなものだろう。


 そう考えると、むしろ可愛いな。


「そうですか! ありがとうございます! キースさん!」


 すると、リヴィアは嬉しそうな表情を炸裂させ、跳ねた声でそう言った。


「じゃあ……これで一人で留守番できるな? その……がいるから……」


 これは人じゃなくて、怪物だろ……。


 俺は自分で言っておきながら、明らかな違和感を覚えてしまう。


 い、いや、リヴィアが人だって思うなら人だ。


 そうだ。これはリヴィアを守る守護騎士なんだ。


 俺は湧き出る疑問を叩き潰す。


「はい! 私、このキースさん二号があれば、一人でも大丈夫です!」


「ん? き、キースさん……なんだって?」


 俺はリヴィアの口から出てきた気になる単語のことを尋ねる。


「ふふっ、これはキースさんの髪から作られた守護騎士なので、キースさん二号です! この子はほとんどキースさんみたいなもんなんです!」


 リヴィアは嬉しそうに怪物……じゃなくて、守護騎士を優しく撫でながら、そう言った。


 俺の髪の毛から作られたから……キースさん二号?


 この怪物が……俺と同じ……?


 俺は生理的な抵抗をどうしても払拭できなかった。


「あっ、でも、キースさんが私にとっては一番ですよ」


 優しいリヴィアは、複雑な感情に苛まれる俺をフォローしてくれた。


 あ、ああ……俺が一番ならいっか……。

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