第2話 主人公発見!

 砂塵が吹き荒れ、陰鬱な死臭が辺りを飲み込んでいる。


 ここは完全に枯れた土地であり、あと半世紀はここに命が芽吹くことはないだろう。


 俺は目の前に転がる無数の骸を見ながら、深く溜息を吐いた。




 数日前に勃発した王国軍と帝国軍との戦い。


 帝国軍は近年圧倒的な強さを手に入れており、王国軍を既に蹂躙しつつあった。


 その蹂躙の結果こそが、俺の目の前の惨状だった。



 しかし、この戦場だけは他の戦場とは違って明らかに異常だった。


 死体の山の中心には、大きな魔力の痕跡が残っており、黒い紋章がそこら中に張り巡らされていた。


 世界を飲み込もうとするような悪意が、王国軍に牙を向けた……そんな感じの戦場だった。



 人の身でありながら、世界を破滅させる要因となる帝国軍。


 その全容は全く把握できず、俺ですらほとんどの情報を掴めていなかった。


 なんでも、とんでもない生物兵器を隠し持ってるとか……そんなあやふやな情報が錯綜していた。



「流石に……いないか」


 俺は転がる死体を押し退けながら、辺りを見渡す。


 俺が探しているのは、いつかランダムスポーンする主人公だ。


 こんな悲惨すぎる戦場にでも、そんな主人公がいる確率はゼロではない。


 むしろ、あまりに絶望的な条件すぎて、他の環境より主人公がいる確率がむしろ高いと言えるだろう。


 絶望というゲームは、そういうゲームなのだ。



「ん……?」


 高めの丘から辺りを見渡すと、小さな人影が見えた。


 ん? 小さいな。


 戦場には相応しくない小柄な影に、俺は違和感を覚えた。


「あ」


 影の見えた方に近づいてみると、そこには意識を失った銀髪の少女が倒れていた。


 俺は血で汚れてしまった少女の顔を見つめる。


「こ、これは……」


 俺はゴクリと息を飲む。


 顔と身長を見る限り、年齢は15歳くらいだろう。


 少女はこの戦場に明らかに相応しくない整った端正な顔をしていた。


 綺麗な人形のように整った顔は、周りの惨状との差も相まって浮世離れした雰囲気を醸し出していた。



 こ、この子……主人公じゃないか?


 俺は恐る恐る、銀髪の少女を持ち上げる。


 少女の体は恐ろしいほどに軽く、間違いなく栄養失調状態であることが分かった。



 とりあえず、状況を整理しよう……。



 こんな悲惨な戦場に一人で放置されていること。


 見るからに別格で美しいこと。


 栄養失調不可避の劣悪な環境で育っていること。


 そして、最後はひしひしと感じる少女の潜在魔力。



 俺が感じる限り、この少女にはとんでもない潜在魔力が内包されていた。


 主人公として俺が想定していた潜在魔力の数倍……いや、それ以上の潜在魔力をこの子から感じ取れた。



 確定だ。うん……ほぼ確定だ。


 この子は主人公だ。


 この世界を約5パーセントの確率で救うはずの主人公だ。



 俺は内心ガッツポーズをしながら、銀髪の少女を抱き上げて歩き始める。


 よしよしよし。


 苦節約三年間。


 タイムリミットがギリギリまで迫っている中で、幸運にも主人公を見つけることができた。


 少しでも見つけるのが遅れていれば、この子は多分死んでいただろう。


 本当にそれは幸運としか言いようがない。


 この世界は首の皮一枚で繋がったようだった。



 俺は少女を抱えたまま、上機嫌に戦場をスキップする。



 そう言えば……この戦場に漂う瘴気って、この子の魔力と似てるんだよなぁ……。


 俺はスキップしながらも、そんなことを考えてしまう。


 辺りを包み込む瘴気は、この銀髪の少女の発する魔力と似ていた。


 なんと言うか、真っ暗で、どんよりしていて、救いようがないほどの暗い魔力。


 そんな感じが、辺りの瘴気と似ていた。



 まさか、この子がこんな惨状を引き起こしたのか?


 いやいや……主人公はそもそもレベルが上がらないと本当に使い物にならない雑魚なはずだ。


 こんな惨状を引き起こせるのは、帝国軍かラスボスくらいなものだ。


 そんなの流石にありえないよな。


 俺は嫌な予感を覚えながらも、その予感をかき消した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る