第34話 そういうのが好きな男子たちと、わりと律儀な女子
ひとまず、宝探しの依頼は第七支部の面々のみで受けることとなった。
「それじゃ、あとは好き勝手に探してくれ!! 日が沈む前にまた迎えに来るから!!」
転移術で一同を目的地に送り届けると、金枝は煙のように姿を消した。
目の前には葦やススキが生い茂る原が広がっている。リツは軽く痛みつづける頭をおさえ、深くため息を吐いた。
光を受けて輝きながら穂が風に波立つさまは壮観だとも思えるのだが。
「う……、リツ、大丈夫かな……っく」
顔面蒼白のセツが口元をおさえながら首をかしげる。人を気遣っている場合には見えないが、確認しておきたいことがあるのだろう。
「はい。そこまで酷い状態ではないですが、今回は私の察知能力は期待しないほうがよいかと」
「ああ、やっぱり?」
「はい。お役に立てず、申しわけございません」
「ううん、気にしないでいいよ。なにせこの辺りはさ」
口元から手を外した青ざめた顔に苦笑いが浮かぶ。
「人妖問わず、亡骸が多すぎるものね」
「ええ、本当に」
うなずくと、枯れ草と血肉が入り混じった臭いが微かに鼻腔を突いた。
目の前に広がる草原のあちらこちらから、殺気、無念、怒り、恐れ、恨み、そんな気配が感じられる。それを発しているものの量ははかり知れない。この中で目的の気配のみを探るのはさすがに難しいだろう。
「えっと、たしか、ずぅっと昔に、人とあやかしの、大きな戦、が、あったんでした、よね?」
「そうだな……、だからこそ……、退治人の始祖が使ってた道具があるかもなんだが……」
「そ、そうですよね。ある、かも、なんです、が」
メイとハクが揃ってため息を吐いた。
「前回おんなじ依頼を受けたときは、結局外ればっかりだったからなぁ」
セツも深いため息を吐く。
そんな三人の様を見てリツもおおいに脱力した。
「セツ班長。前にも受けたことがあったのならそう教えてください」
「あはは、ごめん、ごめん。まあ、前回も失敗しちゃったわけだから、今回も成功はむずかしいかなぁ、とは私も思ったんだけどね」
まったくの平謝りに頭痛が強まった。気配をうまく探れない以上、今回も徒労に終わる可能性が高いはずだ。
「ふふ、リツ。『なら、なんで受けたんですか?』って言いたげだね」
「ええ、まあ」
「それはね、神野殿の言う『報酬を弾む』っていうのに惹かれたからなんだ」
「え?
「いやいやいや! それは大丈夫だよ!! というか、リツも諸々の帳簿を確認したりしてるんだから、その辺はわかるでしょうに」
「それはまあ。なら、なぜですか?」
「ほら、神野殿はあやかしの長なわけじゃない? そんな相手からの全力の報酬が何なのか気にならない?」
「……」
首をかしげた笑みに、数々の神話や昔話が思い出された。人ならざるものから人智を超えたなにかを与えられるという形の物語。第七支部に来るきっかけとなったあやかしが使っていた囮や、ソシエが作っていた
「たしかに、興味深くはありますね。今後の退治に役立てそうですし」
「ふふふ、でしょ?」
「でも、そういったものを手に入れると大抵ろくなことにならないか、手に余って結局は捨てたりすることになるのが多い気もします」
「まあ、無限に塩が出てくる石臼だとかならそうかもしれないけど。でもさ、報酬云々を置いておいてもだよ?」
俄かに、セツは目を輝かせ胸のあたりで手を握りしめた。そして。
「伝説の武器探しなんて、すごくグッとくる依頼じゃないか!!」
ものすごく個人的な意見を言い放った。
頭を苛む鈍痛がさらにひどくなる。
「セツ班長。依頼を受けるかどうかの判断はも──」
「そ、そう、ですよね!!」
「本当……、それな……」
口をついて出た苦言がメイとハクによってかき消された。
二人の目もいつになく輝いている。
「だろ!? 私としては七枝刀みたいなかんじのやつだといいと思うんだけどみんなは!?」
「えと、僕は、矛とか戟だと、カッコイイと、思い、ます!!」
「俺的には……、神話にあった……、あの兵士なんだか武器なんだかわならない『
「おお!! ハクってば、いい所持ってくるじゃない!!」
「さすが、です!!」
「いや……、それほどでも……」
宝の正体が何かという話題に夢中になる男性陣を前に、頭痛がますます加速する。
たしかに、あまり気が重くなる依頼よりはいいのかもしれない。しかし。
「でも、常識的に考えて七枝刀が一番グッとくるだろ?」
「い、いえ!! 矛か戟、が一番、です!!」
「一番は……、『
議論が白熱し、早くも収集がつかなくなりはじめる。しかも、輝く目がそれぞれの一番に同意を求めるような視線を送りだした。
リツは脱力しながらも息を深く吸い込んだ。そして。
「ちょっと男子!! 真面目にやってよ!!」
わりと律儀に渾身の力を込めて思いの丈を言い放った。
「……ごめんなさい」
「ご、ごめん、なさい!!」
「ごめんなさい……」
風が吹きわたる草原には、男子たちの謝罪が力なく響いた。
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