第33話 古とか伝説とか同族嫌悪とかそういうの
突如としてあやかし界の重鎮の訪問を受けたリツたち青雲第七支部の面々は、急遽詰所に全員集合していた。
「よう! オメーらも久しぶりだな!」
相変わらず上機嫌そうに笑う金枝を前に、メイとハクが姿勢を正しかるく会釈する。
「お、お久しぶり、です」
「お久しぶりっす……」
いつもよりもやや畏まっているようだが、極度に緊張している様子ではなさそうだ。
「えと、今日は、三日三晩不眠不休での、双六、とかでしょうか?」
「それともアレっすかね……、この間の超次元蹴鞠的な……?」
聞いただけ多大な疲労を感じる遊戯が二人の口から放たれる。幸いなことに今日は別件で来たはずだが。
「おお!? それも楽しそうだな!」
金色の目が見開かれキラキラと輝いた。このままでいると話があらぬ方向に向かっていくのは目に見えている。
ゆっくりとセツに目を向けると、苦笑いともに軽く頷かれた。
「ははは、神野殿。遊びに誘っていただけるのは私どもとしても恐悦至極に存じますが、本日は別件でお急ぎなのでしょう?」
「ワハハハ、それもそうだったな!」
なんとか元に戻った話題にリツは内心胸をなで下ろした。しかし、放っておいたらまた大いに軌道がはずれてしまうだろう。
「それで、本日のご依頼は宝探しということでしたよね?」
「おう! その通りだぜ副ハンチョー! オメーらはさ、帝の家にある絵のこと知ってるか?」
「絵、ですか?」
「ほら、あの手長足長とかのあやかしが、すげーいっぱい描かれてるやつ!」
「ああ、あの」
言われているものに覚えはあった。実際に見たことはないが、皇后に仕えた女房の随筆にそのような絵が宮中にあると書かれていたはずだ。その一説を読んでから、なぜそのような悪趣味なものが飾られているのかずっと疑問に思っていた。
「そうそう! 神話よりちょっと前の時代にいたオメーらの始祖みてーなヤツらの退治風景を描いたやつ!」
「なにそれ、知らない……あ」
長らくの疑問がいきなり解消され思わず素が出てしまった。
「も、申し訳ございません! ご無礼な口をきいてしまって!」
「ワハハハ! 気にすんなって!」
慌てて頭をさげたが、聞こえてくる声は相変わらず上機嫌だ。恐る恐る顔を上げた先に声に違わない笑顔が浮かんでいる。
「リツってさ、意外とウッカリさんなところがあるよね」
「え、えっと、でも、完璧な人なんて、この世にいない、ですし」
「メイの言うとおりだな……。それにどうせ……、そんなところも可愛いだとかのろけるんだろ……?」
「ふふふ、メイもハクも分かってるじゃない」
「……」
小声でワチャワチャとしはじめた三人に鋭い視線が向けられる。
「……ごめんなさい」
「ご、ごめん、なさい!」
「ごめんなさい……」
三人が頭をさげると、リツは軽く咳払いをしてから金枝に向き直った。
「失礼いたしました。神野殿」
「ワハハハ! 気にすんなって! それにしても、仲良しで愉快だなオメーら!!」
「それはどうも。それで、ご依頼の宝探しはその絵に関係があるんですね?」
「そうなんだよ! 実はその退治人の始祖みてーなヤツらが使ってた道具がよ、ここのちょっと先にある茅の原っぱに埋もれてるらしいんだわ!」
「なら、それを探せというのが今回のご依頼なのですね」
「おうよ! さっきも言ったとおり礼は弾むし、もしも見つかんなくても文句は言わねーぜ!」
「左様でございますか」
相槌を打ちながら、「ここのちょっと先にある茅のはらっぱ」に該当する場所を思い浮かべる。おそらくは、少し離れたところを流れる川に沿って広がる、葦やススキの生い茂る原のことだろう。
その広さは、四人がかりでも隈なく探すのは難しいほどだ。たとえ失敗しても咎めがないというなら、引き受け得なのかもしれないが。
セツに視線を送ると、苦笑とともに軽い頷きが返ってきた。
「神野殿、とても心惹かれるお話ではあるのですが、私たち四人のみで引き受けるにはいささか荷が勝ちすぎかと」
「そうか? なら、
金枝の口から溢れた名前に、思わず体が跳ねた。
「あはは。そんな、神野殿。
案の定、セツは提案を断った。しかし、その口調からは気後れというよりもなぜか苛立ちを感じる。
首をかしげていると、メイが小さくため息をこぼしま。
「えっと、セツ班長は、山本殿と、その、折り合いが悪いですから、ね。いえ、物腰は、柔らかなかたなの、です、が」
続いてハクも軽くため息を吐いて深くうなずく。
「そうだな……、あのヘラヘラしてて……、どこか人を小馬鹿にしたかんじが……、気に食わないらしい……」
物腰は柔らかい。
ヘラヘラしている。
人を小馬鹿にしたかんじ。
二人の言葉に、自然と首が縦に振れた。
「つまり、同族嫌悪ですか」
「えと、はい。多分それ、です」
「そうだな……、いわゆるそんなかんじだ……」
「ちょっと三人とも、聞こえてるんだけど?」
気がつくと、頬を膨らませた顔に見つめられていた。
「……ごめんなさい」
「ご、ごめん、なさい!」
「ごめんなさい……」
つい先程と似たようなやり取りをしていると、再びカラカラとした笑い声が部屋に響いた。
「ワハハハハ!! オメーら本当に仲良しだな!! しっかし、たしかにハンチョーは玉葉のヤツにちょっと似てるわ!!」
「別に、似てなどいませんよ。ともかく、このご依頼は私たち四人で引き受けますので」
いつになく不機嫌なセツの声が部屋に響く。
リツはこれから向かう「ここのちょっと先にある茅のはらっぱ」の広さを思い浮かべながら、深くため息を吐いた。
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