幕間 陽と蜩
幕間 陽と蜩
【主人公過去編『
―――――――――――――――――
少年は
白い月が
――名も、顔も知らない。
唯一知り得たのは、少年が彼らを手に掛けた瞬間の
「
飯を食わせてやるからと連れてこられた先で、飯よりも先にあたえられたのは、
拾ってきた
伊賀の里では、このような非道な所業が、日常の一幕として当たり前のように行われていた。
「我が里山の、物言わぬ
――この日、少年ははじめて、
* * *
音とは、声、すなわち存在そのものを意味する。
存在しない者、
心が弱く逃げ出す者は、新人
一人前の忍者を育てるためには、それなりの
それがたとえ捨て駒同然の
使いものにならない
そうやって望むと望まざるとに関わらず、命を勝ち
* * *
少年は、足かけ五年で
どんな劣悪な
しかし
忍者に必要な
しかし同時に、
よって、彼がどれほど多くの忍務をこなし、里へ
* * *
「――よぉ、帰っていたか、
ある日、
その男もまた音無しであった。
彼と同じ年に、彼よりも少しだけ早く里入りした男である。
しかしながら、
少年は男から目を離すことなく、赤黒く変色した腕に慣れた手つきで
「その呼び名は、昨日で
「またか、お前はころころとよく変わるなァ。次の名はなんという?」
「……
「東雲?」
途端に男は高笑いした。
逆に言えば、これほど忍者らしからぬ名前もない。
「こりゃあいい! 朝帰りの
「やかましい」
女遊びを
ゆえに、里から役立たずの
少年は過去に数度、朝帰りの前科がある。
そして今回もまた、普通ならば死ぬはずの戦地から奇跡的に生還していた。
「お前はいつだってそうだ。
同じ
しかしその両眼には、ギラギラと
――嗚呼、これを
一度目ならまぐれ、二度目までなら偶然で片付けられようが、こう何度も奇跡が続くとなれば、なにかカラクリがあるのでは、と
しかし残念ながら、期待するような
「死にたくねぇ、それだけだ」
むしろ、彼にはそれだけしかないのだ。
少年が他の
途端に、男は面白くなさそうな、どこか
「……お前、まだそんな甘ぇこと言ってやがんのか」
「お前がいない間に、
一人はとある
後者は、彼らと同じ年に里入りした女であった。
「これで、生き残った同期は、もう俺とお前だけだ」
この
あの日、名を奪われ、
しょせんどれほど
「……だったら、なぜお前は生きている」
今度は少年が、軽蔑した眼差しを男へむける番であった。
いっそ死んでしまった方がよほど楽であろうに、口では生き長らえることに意味がないと言いながら、この男だって
しかし、少年の皮肉を
「なぜ、なぜだと? ――決まっている。ひとりでも多く、地獄への
男の
「納得いかねェだろう、
男は
「なにが
「…………」
後半の台詞は、もはや少年の耳には入っていなかった。
興味がなかった。
ただどんなにこの世が不条理だろうと、自分は生きて、生き抜いて、いつか自由になってやる。
改めてそう想うのみである。
この日を
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